いまだレオンに薬を飲ませた真犯人が分からず、ナタリアが落ち着かない日々を過ごしていたときのこと。

夜中に目を覚ましたナタリアは、いつもはベッドの下で丸くなって眠っているユキの姿が見当たらないことに気づく。

見ると、閉めたはずのドアが開いていた。

「ユキ? どこに行ったの?」

ナタリアは眠い目をこすりながら、ユキを探して廊下に出た。

窓から入り込んだ月灯りを頼りに廊下にくまなく目をこらすが、ユキはどこにもいない。

(温室に行ったのかもしれないわ)

ナタリアは、リシュタルトが十三歳の誕生日に用意してくれた、一階の温室に向かうことにした。

その途中、階段付近にある二階のドアから、人の声が漏れ聞こえているのが気にかかる。

そこは、アリスの部屋だった。

(アリスって、夜更かしなのね)

そんなことをぼんやりと思いつつ通り過ぎようとしたが、「なんで私が一番じゃないのよ!」という金切り声が耳に入り、気づけばピタリと足を止めていた。

(え? 今のって、アリスの声……?)

気になったナタリアは、忍び足でアリスの部屋のドアに近づくと、そうっと耳を寄せる。

思った通り、真夜中だというのに、アリスが侍女相手に話し込んでいるようだ。

「番なのに、おかしいと思わない!? 番って、この世の何よりも愛されて大事にされるんじゃないの!? そう聞いていたのに!」

普段の愛らしい声からは想像もつかないほど、ドスの効いた声である。