悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

従者に手を引かれ、逃げ惑う人々を縫うように廊下を駆けるうちに、ナタリアはもうひとつの違和感に気づく。

(そういえば、レオン獰猛化事件の犯人はナタリアだったはず。でも私、そんなことしてないわ……!)

モフ番の中で、レオンに恋していたナタリアは、アリスに嫉妬して、獰猛化する薬をこっそりレオンに服薬させた。

レオンにアリスを攻撃させ、お互い心身ともに傷つけるつもりだったのだ。

(どうしてお兄様は獰猛化したの?)

ぞくっと背筋が震える。

番設定が緩くなっても、やはりこの世界のヒロインはアリスなのだ。

見えない力がナタリアを悪役令嬢に仕立て、破滅へと追いやろうとしているのかもしれない。

(私、何をのんびりしていたのかしら。援助のことなんて考えずに、さっさと逃げればよかったのよ。このままだったら間違いなくお父様に投獄されてしまうわ)

恐怖で足取りが重くなるナタリア。

「ナタリア様、早く行きましょう!」と従者がせかしてきたが、ナタリアはそれどころではなかった。

「ナタリア様、しっかり!」

もたもたしているナタリアに、従者がひときわ大きな声を張り上げたそのとき、ナタリアは柱の陰に隠れている黒髪の少女に気づく。

それは、アリスだった。

震えながら、助けを求めるようにこちらを見ている。