悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

ずらりと並んだ洗濯紐には、真っ白なシーツが所狭しとはためいている。

燦々と日が照り、穏やかな風の吹く今日は、絶好の洗濯日和のようだ。

「お兄様、この先にある小川まで行ってみませんか?」

「そうだな、その方がふたりでゆっくり話ができそうだ。ここだと使用人がたくさん出入りするからね」

レオンとナタリアは、洗濯物を縫うようにして歩き出した。

「そういえば、ここのところ父上を避けてるね。喧嘩でもしたの? 僕としてはナタリアといられる時間が増えてうれしいけど」

途中、レオンが思い出したように言った。

「ええ、ちょっといろいろありまして」

説明が面倒なので、ナタリアは笑顔で受け流す。

だが、ふと思いとどまった。

(そうだ! お父様がダメなら、お兄様に頼んでみればいいのよ)

リシュタルトとは違って扱いやすい兄なら、頼み方次第で、うまく説得できるかもしれない。

王太子の彼は、自由が効くお金もそこそこあるだろう。

皇帝を継承すれば、リシュタルトの財産もすべて彼のものとなる。

ナタリアは立ち止まると、ひしとレオンの両手をつかんだ。

「お兄様、お願いがあるのです。お父様はダメだとおっしゃったけど、お兄様なら叶えてくれますよね?」

ヘーゼルの瞳を悲しげに揺らめかせる愛らしい妹を、レオンがすげなくあしらうわけがなかった。

レオンはごくりと唾を呑み込むと、きりりとした表情をナタリアに向ける。

「何だって? 父上がお前の頼みを断ったのかい? 僕ならもちろん断らないよ、何でも言ってごらん」

「まあ、うれしいです。私、獣操師になりたいのです」

「獣操師? お前、そんな夢があったのか。たしかに王女が夢見るには違和感のある職だが……どうしてもなりたいのか?」

「はい! 今までそのためにコツコツとお勉強をしてきたのですが、お父様が認定試験を受けさせてくれないのです」

「なるほど、かわいそうに。僕が受けられるよう手筈を整えてやろうか?」

「本当ですか!?」

ナタリアは、花開くように笑った。

持つべきものは、単純思考の兄である。

ナタリアは嬉しさのあまり、「お兄様、大好き!」とレオンに抱き着いた。

レオンは目に見えて上機嫌になり、顔を赤らめながら頭の後ろを搔いていた。

(ついでに、北大陸に移り住みたいことも頼んじゃお。この調子なら、協力するって言ってくれそうだし)