悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

ギルの計画通り、港町に向かう馬車の荷台に忍び込む。

御者とあらかじめ話をつけていたようで、荷物を詰め込んだ荷台には、ちょうどギルとナタリアが身を隠せるような空間が作られていた。

港町の路地裏に馬車が停まると、こっそり外に出る。

ギルが紙幣を握らせると、御者は快く受け取って、もと来た道を馬車で引き返して行った。

あまりにもスムーズに事が運んだので、いささか拍子抜けしてしまう。

「なんか慣れてない? こういうこと」

「そうですか? 普通だと思いますけど」

「そういえばギルって、城に来る前から家庭教師をしてたの?」

「気になりますか?」

ギルが横目でナタリアを見た。

「うん、気になる」

考えてみれば、ナタリアはギルのことをほとんど知らない。

すると、突然ぎゅっと手を握られる。

ナタリアがびっくりしていると、「はぐれたら困りますので」となぜか色気たっぷりに微笑まれる。

「……それはそうよね」

ナタリアの手を握ったまま、裏通りから表通りに出るギル。

リシュタルトやレオンと手を繋ぐときは、別になんてことないのに、ギルと手を繋ぐとなぜか少し緊張してしまう。

そのせいで、城に来る前も家庭教師をしていたのかという質問の答えを聞きそびれてしまった。

通りをしばらく行ったところで、ふいにギルが口を開いた。

「以前から気になっていたんですけど、ナタリア様は、なぜ自分の力で生きることにこだわられているのですか? あなたは将来を約束された王女なのに」

はたから見れば、たしかにナタリアは、出生のいろいろを除けば何不自由なく暮らしている恵まれた王女なのだろう。

実際は、バッドエンドまっしぐらの王女だというのに。

「将来なんて、約束されていないわ。この先、誰も予想できないようなことが待ち受けているかもしれないもの」

「まあ、そういうものですよね。分かります」

ギルがいつもの穏やかな調子で言う。

本当に分かっているのかどうか、いまいち読めない。相変わらず掴みどころのない男である。

(ていうか、絶対分かってないでしょ)

父親に断罪され、皆に忌み嫌われ、若くして死んでしまう運命が待ち受けている苦悩など、ナタリア以外誰にも分かりはしないに違いない。

「ナタリア様、ご相談があるのですが」

「何?」

「北大陸に移り住む際は、私もご一緒していいですか?」