悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

「私、将来北大陸に住もうと思っているの」

翌日の午後、ナタリアは真面目な顔でギルに告げた。

書物を手にしたギルは、顔を上げてバイオレットの瞳を見開くと、まじまじとナタリアを見つめた。

「これはまた急な相談ですね。どうしてそんなことを思われるようになられたのですか?」

「北大陸では、獣操師の仕事が引く手あまたなんでしょ? 前にギルが言っていたじゃない。私は獣操師になって自立して、自分で自分を養えるようになりたいの」

リシュタルトの優しさにはもうだまされない。

彼を利用するだけ利用して、早いうちにこの国からとんずらしなくちゃ。それも絶対にアリスと出くわさないような遠い北大陸へ。

ナタリアの隣に行儀よく座っていたユキが、同意するように「クウン」と泣いた。

ナタリアはユキの頭を抱き寄せ、撫でてやる。その時が来たら、ユキを連れて行くのは難しいだろう。目立ってしまうからだ。

切ない気持ちになったが、今はまだそのことはユキに秘密にしておくことにする。

「だから将来のために、少しでも多くの北大陸の情報を知りたいの。今までみたいにギルが教えてくれるならそれにこしたことはないけど、北大陸のことは詳しくないんでしょ?」

「まあ、行ったことがありませんからね。私はこの大陸出身ですので」

「なら、港町に連れ出して。港町には北大陸出身の人もいるんでしょ? 話が聞きたいの。お父様は許してくれないと思うからこっそりよ」

「困ったお姫様ですね。バレたら皇帝陛下に私が殺されるじゃありませんか」

「ダメ?」

ナタリアは、シュンと肩を落とした。

無理なお願いだというのは分かっている。だがナタリアには、頼れるのはギルだけなのである。

さすがに断られるかしら、としょげていると。

「いいでしょう」

ギルは、わりとあっさり受け入れてくれた。

「え? いいの? バレたら殺されるかもしれないのよ」

「私がナタリア様の頼みを断ったことがありましたか?」

「ないけど……」

「ですよね? では、さっそく明日にでもお忍びで出かけますか」

「本当に!? さすがギルだわ!」

ナタリアは手を叩いて喜んだ。

優秀で従順な家庭教師がいて、本当によかった!