悪役幼女だったはずが、最強パパに溺愛されています!

そのセリフには覚えがあった。

モフ番での終盤、アリスのことを気に入ったリシュタルトが、舞踏会で踊る彼女を見て口にするセリフだ。

そのとき、アリスはオフホワイトに水色の装飾があしらわれたドレスを着ていた。

だからリシュタルトは、オフホワイトをドラドに、水色の装飾を水に例え、踊るアリスを表現したのだ。

だが、今ナタリアが来ているのは黄色いドレス。

間違ってもそんな比喩は出てこないはずだ。

(どうして今、そのセリフを……)

怯えながらリシュタルトを見つめるナタリア。

心臓がドクドクと不穏にざわめいて、落ち着く気配がない。

「どうした? 疲れたか?」

「はい、少し」

「そうか、それなら一曲で終わろう」

玉座の隣に戻っても、ナタリアの心は晴れないままだった。

リシュタルトとナタリアがダンスを踊るシーンは、モフ番の中にない。

だからアリスとのダンスシーンと勘違いして、リシュタルトの中でバグ的なものが発生したのだろう。

やはりリシュタルトは紛れもなくモフ番の中のリシュタルトであり、彼もアリスをハッピーエンドへと導く要員のひとりなのだ。 

運命には抗えない。

ナタリアがどんなに搔き乱しても、この世界がアリスのために存在する以上、必ずどこかで補正が入る。

恐ろしさに、ナタリアは身震いした。

ナタリアへの愛情が冷め、アリスに気持ちが傾いていくリシュタルトを見る日は確実に来る。

だとしたら、彼に愛される心地よさを知ってしまった今はなおさらつらい。

いっそ嫌われていたら潔く城を出れたのに、安泰に暮らしたいがために、どうして余計なことをしてリシュタルトに好かれるようなことをしたのだろうとナタリアは後悔した。

世の中甘くないというのは、前世の経験で充分すぎるほど分かっていたのに。

(十五歳まで待ってられないわ、十三歳になったらすぐに出られるよう、準備を進めなくちゃ)

――変わってしまうリシュタルトを見るのはつらいから。

ナタリアは胸の内で、固く決心したのだった。