今、唇…触れて…。
一瞬だけの感触だった。
凪が直ぐに離れてくれたから。
「っ…ご、ごめんね」
凪の事、見れない。
事故だったし、一瞬だったし、直接じゃなかったし…気にする事じゃないよね。きっと凪だってそう思ってる。
それなのに…、
私だけ変にドキドキしてるなんて。
俯き、自分の胸に手を当てた。
鼓動が早くて吃驚してしまう。
…落ち着かないと。
今は何ともないけど、倒れたりなんかしたら色んな人に迷惑をかけてしまうもの。
「紬、」
名前を呼ばれ、思わず顔を上げた。
「っっ、!?」
その一瞬にまた触れた。
マスク越しの、凪の唇に。
今度は揺れていないのに…!
「な、なぎ…?」
だけど冷静に。
きっと突然顔を上げたから。
なんて思ったけど。
「な…ぎ?」
真剣な顔で私を見ていた。
何も言わずマスクをずらす。
っ…!?
近付く凪の顔。
私は間一髪で逸らした。
凪の唇がこめかみに触れる。
な、なんで。
「避けるな」
頬を掴まれ前を向く。
「なにするの?」そう言いかけて止まった。
…綺麗な顔。
有名ブランドが挙って凪を起用するのは、このルックスとスタイル…全てが完璧までに整っているから。
遠くから見ても整っている容姿。
近くで見たらもっと綺麗で…。
身動きが取れず、逃げられない。
近付いてくる凪の顔に鼓動が高くなる。
鼻頭同士が当たり、凪の吐息が肌に触れた。


