助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

ホームには、人はまばら。
1分もすれば、さあっと人がいなくなっていた。
私は、鮫島の手首を力強く掴んだまま、人がほとんどいない端の方へと向かった。

「痛いなぁ……離してくれないか?」
「まだダメです」

さっきから、私を子供のように茶化すような話し方を、鮫島はしてくる。
元木さんや、長谷部さん達からの話だと、とても丁寧で、落ち着いた物腰だと聞いていた。
それが、私に対してはどうだろうか。

「ねえねえ、お嬢さん、私をどうしたいの?」

まずは、とにかく馴れ馴れしい。
初対面で無遠慮に攻撃的になる人間も、それなりにイライラしするが……こっちもなかなかひどい。
私がその問いかけに無視し続けていると

「私も、聞きたい事があるんだよ、お嬢さん」

鮫島はそう言うと、私の胸を指差して

「この洋服の、本当の持ち主はどこに行ったの?」

キタ。

「その子の代わりに、私が来ました」
「……え?」
「この服の持ち主へのストーカーやめてくれません?」
「ストーカーだなんて、ひどい。ただ、可愛いな〜って思いながら、ついつい一緒に歩いただけじゃないか。それだけのことじゃないか」
「それだけのことで、女の子は怯えるんです。とにかく、辞めてください。辞めてくれないなら……」

ふと、気づいた。
辞めてくれないなら、警察に突き出して、内定取り消しさせる、というカードは、私が支配していると、思っていた。
自信があった。
でも、考えてみたら。
この人を内定取り消しにすることで、一体誰にとってメリットがある?
むしろ……。

「できないはずだよ」
「え……?」

今、私が考えていることを、この人に読まれたかと思った。
それくらい、完璧なタイミングでの言葉の入り。
私は、鮫島の手首を掴む力を強める。
鮫島は、ははははと、大声で笑い出した。
そして……。

「私は君たちの素晴らしい恩恵を与えることになっているはずだよ」

まさか、この人は知っているというのか。
知っていてやっているというのか。

「……何のことですか」
「私には、約1000万円以上の価値があるんだろ?君たちにとって」

そう言うと、鮫島は、見た者全てをゾクっと背筋を凍らせるような笑みで、私を見た。
私の額から、嫌な汗がこぼれ落ちた。