がしゃんと音がした。
自販機から。
クソ上司の手が、ドブラックコーヒーという……商品名からしてきつそうな商品のボタンを押していた。

「あの……」
「なんだよ」
「それ、私の……お金……ですよね」
「だから?」
「人のお金で何してるんですか?」
「慰謝料」
「何の」
「僕の時間を盗んだ分」

……は?
時間を……盗む!?

「私がいつ加藤さんの時間を盗んだって言うんですか」
「まず今でしょ、ぐずぐずコーヒー1つ決められない」

うっ……。

「そもそもさ、即時即決は仕事の基本中の基本って……前の職場で教わらなかったの」

……そういえば教わった気もする……かも?

「そんなんだから、アポの1件も取れないんだよ」

キタコレ。
話すタイミングは掴むが勝ち!これは私が最も得意な事だ。

「残念でした!さっきアポ取ってきましたー!」
「へえ」

クソ上司のお目目がまんまるになっていた。
あ、こう言う目はちょっと可愛いかも。
よし、丁度いいから今外出の話しちゃおう!
そして今日はもう会話しない。
それがいい!
完璧!

「明日、行って来るんで、外出承認お願いします!」

どうだ、私にだってできるんだぞ、と、少し誇らしげに言ってみせた。

「あのリストから、よく1件でもアポ取れたね」
「……はい?」
「ねえ、一体どんな術使った訳?まさか体じゃないよね」
「はい!体を使いました!」

電話かけまくりましたし。

「ふーん……」

ん?クソ上司……なんか様子がおかしい……。
目が据わってる……?

「あー俺そろそろー」

河西君が後ずらしした。

「河西君?あ、コーヒー奢る」
「いや、また今度、じゃ」

と足早に去っていく。
周囲を見渡してみると、私とクソ上司の二人しかいない。
……なんか私、やばい?

「あーそういえばーそろそろー仕事にー戻らないとー……」

と、のらりくらりと食堂の外に出ようとしたら

「待てよ」

とクソ上司に腕を引っ張られて……
ドン!!!
あれ、背中が壁になって……!!??

「ねえ、高井さん、どうやって体を使ったの?僕にも、同じことしてみてよ」

ねえ……なんで私、このクソ上司に壁ドンされちゃってるの!?