助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

河西君もそうだったけれど。
加藤さんも、このタイミングでは聞きたく無かった人の名前を、どうしてこうも、ピンポイントで当てに来るのか。

「あの……なんで……」

このタイミングで、その話を出すんですか。
そう聞きたくても、口がうまく回らない。
加藤さんが、私を、見たこともないような怖い顔で睨みつけているから。
まるで、加藤さんによって金縛りにあったようだ。

「さっき……随分と楽しそうに……してたみたいだけど?」

さっき。
この言葉だけで、加藤さんがいつの事を言っているのか、分かってしまった。
今日私が河西君と話したのは……たった1回だけだから。

「前言ったよね。河西とばかり話すなって」
「仕方がないじゃないですか。仕事に必要な事は話す必要があるでしょう」
「君と河西が話さなきゃいけないような仕事なんて、あるの?」
「それは……」
「あるわけないよね」
「そんな事分からないじゃないですか」
「ないんだ!」
「どうして……!」
「君の仕事を決めてるのは……僕だ。河西と話をしてる暇なんかないだろ」

その言い方。
まるで、私が加藤さんの所有物のようだと言っている気がした。
そう思ってしまった途端、私の……押してはならなかったスイッチがカチリと入ってしまった。
闘争心という名の。

「……それは、上司命令ということですか?」
「そうだ」
「…………理由は……それだけですか?」
「それだけ……だと?」
「だって……加藤さん管轄の他のメンバーは、河西君とも、他のチームの人ともちゃんと話をしてる。それは雑談だって……。なのに、私だけ特定の人と話すななんて……そんな命令、おかしいじゃないですか、おかしすぎます!」

今加藤さんの顔は、至近距離にある。
そんな顔目掛けて、唾が飛んでしまうかもというくらい、大きな声で私は捲し立ててしまった。
そんな私の言葉に、加藤さんは目を丸くしている。
きっと。
私は、ここで言葉を止めておくべきだったのかもしれない。
これだけでも、十分加藤さんにダメージを与えたことになったのかもしれない。
だけど。
今まで積み重なった、様々な「どうして」が私の言葉を踏み留めてくれない。

「それに……私、河西君と結婚するかもしれません」
「何だって……?」
「プロポーズ、されましたから」

加藤さんは、表情を変えなかった。
何を考えているのか、先ほどよりもずっと、見えなくなった。

「お前たち、付き合っているのか……?」

そうです。
その一言を私が言えたとしたら、きっと全てを……加藤さんとのアレコレに決着をつけられたのかもしれない。
そうするべきだと、この時の私は心のどこかで思っていた。
なのに、私は、加藤さんの問いかけに答えるための言葉を、言えなかった。
それから、無言が続いた。

それから、加藤さんがゆっくりと立ち上がり

「先に帰る」

と階段を降りて行くのを私が見送るまで、どれくらいの時間だったのかは、分からない。
私は、その背中が見えなくなるまで、目を話すことができなかった。
それから、自分に対して必死に言い聞かせていた。
……これでいいのかもしれない。
同い年の河西君との方が、ずっといい。
きっと、それが加藤さんにとってもいい事なのだと。
思い込みたかった。
そうすることで、どんどん胸に広がっていく罪悪感を消してしまいたかった。