お願い、私を見つけないで 〜誰がお前を孕ませた?/何故君は僕から逃げた?〜

Side悠木

次は、君の婚約者だったはずの、海原朝陽くんについてだ。

ねえ凪波さん。
彼は、本当に君を好きだったと思うかい?
少なくとも、私は、イエスでもありノーでもあったと思う。
確かに、君に執着するくらいには、恋はしていたのかもしれない。
でも、彼にはその恋を維持し続けるだけの精神的な支柱が、圧倒的に足りなかったのだろう。

彼の言葉はあまりにも軽い。
それが、彼なりの誠意であり精一杯であったこともよくわかる。
だからこそ、彼がもしかすると最も、これから地獄を見るかもしれない。

発言を切り取られ、おもちゃのように組み替えられ、真実とは全くかけ離れているはずの内容を、真実として広められてしまった。
殺人予告をした、ストーカー社長として、彼の評判はガタ落ち。
本当ならば、君の目覚めを誰よりも待つべきだったのかもしれない。
彼はそう宣言したのだから。
君に。一路に。そして自分に。
少なくとも、最初の数日だけは、そのつもりだった。

けれども、彼は最後の最後選んだのは自分の家。
まあ、仕方がないことだ。
彼には、君以外にも愛する家族も、従業員もいたんだから。

愛を貫くということは、時に環境との天秤が必要になる。
彼には、あまりにもその愛を貫くには不釣り合いな程の大きな背負うべき荷物があった。

いや違う。
再び増やしたのかもしれないし、増やされたのかもしれない。
社会という目に見ることができない、実態のないモンスターに。


結局彼は、その荷物に屈するしか無くなった、というわけだ。
実に滑稽で現代の人間らしいじゃないか。
でも、それもまた仕方がないことなのかもしれないね。
それが、この世界で運悪く目立ってしまった者の運命なのかもしれないから。


凪波さん。
もし、君を追いかけてさえ来なければ。
君に夢を見させられなければ。

きっと彼もまた、来るかもしれない君との未来を夢見たまま、ただ未来を突っ走るだけで済んだかもしれない。

それでも、選ばないといけない時が来てしまったから、彼もまた、選んでしまったのだろうな。その道を。