覗き込むように見つめてくる先輩との距離が、近い。
思わずサッと俯いてしまった顔。
「でも好きでしょ?」
「…すき、です」
「…なら食べればいいじゃん」
なんで、そんなに見つめてくるの。
なんでそんなに優しい声してるの…?
やっぱり先輩は今日もどこかおかしい。
「…おいしい?」
「……はい」
差し出されたものに罪はなく、わたしはパクっと口に入れた。
こうして2人で過ごす時間がいつからか「変」じゃなくなって。
わたしだって今日来るかな?どうかな?って毎日思いながら非常階段の先に向かっていて。
それは先輩を待っているってことで。
「お母さんにもお礼つたえといて」
「…今度…すき焼きって、お母さん本気で楽しみにしてて」
「ははっ、実は俺もわりと楽しみ」
その笑顔だって先輩じゃない。
だって歪んでない。
狂ってない。
それなのに、歪んだように見えるのはわたしの心臓がドキドキとうるさいからだ。



