わたしが先輩の誘いを断らなかった一番の理由は、バトンパス練習よりもこれ。
ここでなら渡せるんじゃないかって思ったから。
「もしかしてずっと待ってた?」
「…はい、ギリギリまで」
隣にポスッと座った先輩。
夕暮れ空が邪魔をして、影を作って。
その顔はよく見えない。
「…ちょーだい。食べる」
受け取るかと思いきや、先輩はわたしの膝の上にお弁当箱を乗せたまま。
パカッと蓋だけ開けて箸を手にした。
「…悪いことしちゃったな」
「いいんです、お母さんが勝手に作っただけなんで」
「…それだけの意味じゃないよ」
モグモグと静かに食べる先輩の声はいつもより小さくて、なんていうか…弱い。
そんなものをただじっと見つめるわけにもいかないから、わたしは地面に置かれたトイレットペーパーの芯を眺めて。
そんな口元に運ばれてくるアスパラベーコン巻き。
「どーぞ?」
「…先輩の分です」



