日誌の端、先輩の達筆な字でわたしの名前が書かれてゆく。


そこは名前を書く欄じゃないのに…。

でも、わざわざ消す気も起きない。



「お母さんに由来とか聞かないの?」


「聞きました。…本当は夏に生まれる予定だったんです」


「あー、それで」



そう、それで「涼夏」って名付けたけど、予定日が過ぎても中々出てこなくて。

いつ出てくるの~ってお母さんは言ってたらしい。

まぁそれが、少し厄介な妊娠中のトラブルだったらしくて。



「すっごい未熟児だったんです」


「…小さかったの?」


「はい。すぐに酸素ケースに入れられて、なんかいろいろ大変だったっぽくて」


「ずいぶんと暢気な娘だ」



わたしもそう思う。

だけど赤ちゃんの頃のことなんか分からないから。


お母さんもああいう人だから、「そんなこともあったわね~」って暢気に笑ってる。


…わたしはやっぱりお母さんの娘なのかもしれない。



「いまは?その影響で持病とか、」


「大丈夫です。おかげさまですくすく育ちました」



先輩は「そりゃよかった」と、笑った。