前の席の椅子に座る先輩は、椅子自体の向きは変えないまま。

股がるようにわたしに向き合った。


トントンと、学級日誌に白くて細い、だけど骨ばった指が跳ねる。



「習字とか習ってた?」


「…いえ、とくに」


「ほんと?俺ね、小学生んとき習ってたんだよね」



へぇ、そうなんですか。


返事をしないまま書いていたわたしに「貸して」と、呟いた先輩。

ふと顔を上げたタイミングでスルッとシャーペンは奪われてしまった。



「ほら、達筆。俺と似てる字だなって思ってさ」



どうにも習字を習っていた人は普通の字さえ達筆になるらしい。


確かに先輩の字も歪んだ人格とは裏腹に、しっかりと「とめ」「はね」「はらい」を実践できている見本的なもの。


字は人を表すってよく言うけど……。

それはどうやら嘘だったらしい。



「南 涼夏。ほんと涼しい名前。これからの季節涼しくしてよ」


「むりです。冬生まれなので」


「ふっ、まじ?」