母のお使いから帰宅中の絃乃は、ふと足を止めた。
――自宅前に、挙動不審の人物がいる。
きょろきょろと周囲の様子を気にしている男が目に入り、とっさに建物の陰に隠れる。息を潜ませて不審人物の姿をこっそり窺う。
男はまだ若いのか、少年といっても差し支えのない顔つきだった。あどけない面影が残っており、何かに怯えたような様子もある。
(一体、ここで何をしているのかしら……)
顔だけ出して様子を探るが、どうやら直接訪問する勇気はないらしい。
よれよれの久留米絣に袴姿の少年は、どこかの家に下宿する書生といった姿だ。右往左往して挙動不審だが、その背筋はピンと伸びている。
(弟が生きていたら、こんな感じかしら……)
双子だったけれど、二卵性だったため、見た目はかなり違っていた。
視線を外すタイミングがわからず、気づかれていないのをいいことに、そのまま無遠慮に横顔を見つめる。
少年にしては睫毛が長く、肌は色白だ。少しクセの強い波打った髪。目元は涼しげで、儚げな印象がある。そのとき、ふと懐かしい顔が頭をよぎった。
(ん? 似てないはずになのに、前世の弟に似てる気がする……)
前世の二歳下の弟は、美人の母親似で端正な顔立ちだった。さらに、外遊びよりも家の中にこもるタイプだったため、肌の白さも弟のほうが勝っていた。
二人揃うと、姉よりも女性らしい風貌をしていた弟。SEという仕事柄、度数の強い眼鏡を愛用しており、家事スキルは高いのに対人スキルは低く、彼女ができても長続きしないタイプだった。
(いやいや、まさかね。よく見たら顔つきも違うし、雰囲気だけ同じに見えたのも目の錯覚かも……。だって、ここは乙女ゲームの世界なんだし)
前世の弟がいるわけがない。
そう思うも、なぜか視線がそらせない。引き寄せられるように、彼の一挙手一投足に注目してしまう。知らず、足が前に出してしまったらしい。
「あっ!」
少年がこちらに気づき、気弱な様子で必死に弁明する。
「あの、怪しい者ではありません。ちょっとここを通りかかっただけで……」
「そ、そうなの。偶然ね。私も今、通りがかったところなの」
我ながら言い訳が苦しい。けれど、それは少年も同じようだったようで、額に汗がじんわりとにじんでいる。
「ここは白椿家のお屋敷だそうですね。あまりに立派なので、つい見とれてしまいました」
「古いお屋敷よね。増改築しているけれど、昔ながらの家らしいわ」
二人して見上げると、しっかり剪定された松の枝が見えた。
代々引き継いできた家とはいえ、人によっては古くさいと言われるような日本家屋だ。ちらりと横にいる少年の反応を見ると、思ったより距離が近かったことに今更気づく。
だが、なぜか羞恥心よりも親近感のほうが強くて、まじまじと見てしまう。それがいけなかったのだろう。絃乃はつい口を滑らした。
「音夜……?」
――自宅前に、挙動不審の人物がいる。
きょろきょろと周囲の様子を気にしている男が目に入り、とっさに建物の陰に隠れる。息を潜ませて不審人物の姿をこっそり窺う。
男はまだ若いのか、少年といっても差し支えのない顔つきだった。あどけない面影が残っており、何かに怯えたような様子もある。
(一体、ここで何をしているのかしら……)
顔だけ出して様子を探るが、どうやら直接訪問する勇気はないらしい。
よれよれの久留米絣に袴姿の少年は、どこかの家に下宿する書生といった姿だ。右往左往して挙動不審だが、その背筋はピンと伸びている。
(弟が生きていたら、こんな感じかしら……)
双子だったけれど、二卵性だったため、見た目はかなり違っていた。
視線を外すタイミングがわからず、気づかれていないのをいいことに、そのまま無遠慮に横顔を見つめる。
少年にしては睫毛が長く、肌は色白だ。少しクセの強い波打った髪。目元は涼しげで、儚げな印象がある。そのとき、ふと懐かしい顔が頭をよぎった。
(ん? 似てないはずになのに、前世の弟に似てる気がする……)
前世の二歳下の弟は、美人の母親似で端正な顔立ちだった。さらに、外遊びよりも家の中にこもるタイプだったため、肌の白さも弟のほうが勝っていた。
二人揃うと、姉よりも女性らしい風貌をしていた弟。SEという仕事柄、度数の強い眼鏡を愛用しており、家事スキルは高いのに対人スキルは低く、彼女ができても長続きしないタイプだった。
(いやいや、まさかね。よく見たら顔つきも違うし、雰囲気だけ同じに見えたのも目の錯覚かも……。だって、ここは乙女ゲームの世界なんだし)
前世の弟がいるわけがない。
そう思うも、なぜか視線がそらせない。引き寄せられるように、彼の一挙手一投足に注目してしまう。知らず、足が前に出してしまったらしい。
「あっ!」
少年がこちらに気づき、気弱な様子で必死に弁明する。
「あの、怪しい者ではありません。ちょっとここを通りかかっただけで……」
「そ、そうなの。偶然ね。私も今、通りがかったところなの」
我ながら言い訳が苦しい。けれど、それは少年も同じようだったようで、額に汗がじんわりとにじんでいる。
「ここは白椿家のお屋敷だそうですね。あまりに立派なので、つい見とれてしまいました」
「古いお屋敷よね。増改築しているけれど、昔ながらの家らしいわ」
二人して見上げると、しっかり剪定された松の枝が見えた。
代々引き継いできた家とはいえ、人によっては古くさいと言われるような日本家屋だ。ちらりと横にいる少年の反応を見ると、思ったより距離が近かったことに今更気づく。
だが、なぜか羞恥心よりも親近感のほうが強くて、まじまじと見てしまう。それがいけなかったのだろう。絃乃はつい口を滑らした。
「音夜……?」



