乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

「こ、これは……あの、見ないでいただけると」

 慌てて背に隠すが、すでに詠介の目は花器に移っていた。

「少し拝見しても?」
「……うう。はい。どうぞ……」

 うなだれるように横に退くと、詠介が裾をさばき、正座になる。

(……沈黙がつらい……)

 練習用だから、人に見せることは想定していない。心の準備もできていない。
 魂が口から抜けそうになっていると、遠慮がちの声が届く。

「なんというか、盛りだくさん、という感じですね」
「すみません。才能がなくて」
「いえ。頑張っているのはわかりますよ。ちょっと手を加えてみてもいいですか?」
「え? は、はい」

 詠介は膝を前に進めると、考えこむように花をジッと見つめる。
 そうかと思えば、よし、というかけ声とともに、そっと指先で一本ずつ花や葉を抜き始めた。思いのほか慎重な手つきだが、作業スピードは速い。
 そんなに抜いても大丈夫かと心配する絃乃をよそに、詠介はいろんな角度から見ながら、不要と思われる箇所の花を取り除いていく。
 茂っていた花々に隙間風が入り、開放感が広がる。
 詠介はすでにイメージができあがっているように、花の角度を時折変えながら、バランスを調整していく。

「あら……?」
「いかがでしょうか。雰囲気がだいぶ変わったと思うのですが」
「全然違うみたいです……どうして?」

 手際よく修正されたそれは、爽やかな調和が取れていて。とても修正不可能の作品をベースにしたものとは思えなかった。
 詠介は花と絃乃を見比べ、ふっと笑みをこぼす。

「絃乃さんの場合、才能がないわけではないと思いますよ。少し工夫するだけで、こうしてきちんと見栄えもよくなるのですから」
「いえ、一人だとこうはできません。やはり、詠介さんだからこそ、できたことだと思います。手際もよかったですし、お花の心得があるのですか?」
「職業柄、お店の花を触ることも多いですから。それで、他のお店の生け方を参考にして、自分流に勉強してみただけです」

 花を生けるのに男女の差はない、あるのは才能の差だ。
 その事実をまざまざと突きつけられるようで、絃乃は自分の底辺の才能を呪わしく思う。そんな気持ちを見透かしたように、詠介はくすりと笑う。

「でも、絃乃さんの作品には気持ちが込められています。それは誰にでもできることではないと思います。ちょっと肩の力を抜いてみたら、きっと上達しますよ」

 いじけて蕾に戻った気持ちがほころび、花開く。
 彼には敵わない。前世だってそうだ。どうしようと困ったときに颯爽と現れて、月並みの励まし方ではなく、自分だけに向かって言葉を尽くしてくれた。

(ああ、やっぱり好きだなあ……)

 しんしんと降り積もる雪のように、思いは募っていく。
 だけど、この思いが報われるかはわからない。もし思いを打ち明けたら、彼はどんな反応を返すだろう。
 喜ぶか、はたまた、迷惑に思われるか。
 決して、彼を困らせたいわけじゃない。だから、この思いは、まだ胸に留めておかなければならない。