母は来客に対応している。花の用意をしてくれた女中も他の仕事に戻っていった。
一人きりの四畳半の和室で、絃乃は深呼吸して息を整える。
「練習あるのみ……です! 今度こそ、きっとうまくできます!」
自分に暗示をかけるように宣言し、色とりどりの生花から白百合を手に取る。
花切はさみで手頃な長さに整え、花が動かないように剣山留めに差す。その作業を繰り返すうちに、横長の白い陶磁器にはこぼれんばかりの花々が咲き誇っていた。
「……違う、何かが違う。優美さを表現したつもりが、これじゃ……ただのお買い得詰め合わせセットみたいじゃない……」
授業で見たお手本を思い浮かべる。女性教師が生けた完璧な佇まいと自分の作品とを比較してみるが、気持ちは沈むばかりだった。
「私はどうして……皆と同じように生けることができないの……」
何度やっても、自分の作品が輝くことはない。手順は間違っていないはずなのに。
視線を前に戻すと、密集して息苦しそうな花たちと目が合う。
遠くでちりんちりんと風鈴の音がする。涼やかな音色を聞きながらため息をつくと、第三者の声が耳に入る。
「……練習中でしたか?」
急いで振り返ると、そこには紺絣に鼠色の袴、夏羽織を着た詠介が立っていた。
「あ、え、詠介さん……?」
「こんにちは。お邪魔しています」
にこやかな笑みとともに言われ、絃乃は詰まりながらも口を開く。
「ど、どどどうして、我が家にいらっしゃるんでしょう……?」
「本日は呉服屋として参りました。兄が来る予定だったのですが、今回風邪が長引いていて、僕が代役として伺った次第です」
「えっと……来客でしたら母が対応していたはず……」
「奥方ならご近所の方とご歓談されています。僕は厠を借りた帰りで、ここから唸るような声が聞こえてきたものですから」
気になって、と声が小さくなる。
(う、唸っていたところを聞かれるなんて。ああもう、恥ずかしい!)
今にも逃げ出したいところだが、そんなわけにもいかない。どうすればと困っていると、ふと視線を感じた。顔を上げると、自分の後ろに視線があることに気がつく。
一人きりの四畳半の和室で、絃乃は深呼吸して息を整える。
「練習あるのみ……です! 今度こそ、きっとうまくできます!」
自分に暗示をかけるように宣言し、色とりどりの生花から白百合を手に取る。
花切はさみで手頃な長さに整え、花が動かないように剣山留めに差す。その作業を繰り返すうちに、横長の白い陶磁器にはこぼれんばかりの花々が咲き誇っていた。
「……違う、何かが違う。優美さを表現したつもりが、これじゃ……ただのお買い得詰め合わせセットみたいじゃない……」
授業で見たお手本を思い浮かべる。女性教師が生けた完璧な佇まいと自分の作品とを比較してみるが、気持ちは沈むばかりだった。
「私はどうして……皆と同じように生けることができないの……」
何度やっても、自分の作品が輝くことはない。手順は間違っていないはずなのに。
視線を前に戻すと、密集して息苦しそうな花たちと目が合う。
遠くでちりんちりんと風鈴の音がする。涼やかな音色を聞きながらため息をつくと、第三者の声が耳に入る。
「……練習中でしたか?」
急いで振り返ると、そこには紺絣に鼠色の袴、夏羽織を着た詠介が立っていた。
「あ、え、詠介さん……?」
「こんにちは。お邪魔しています」
にこやかな笑みとともに言われ、絃乃は詰まりながらも口を開く。
「ど、どどどうして、我が家にいらっしゃるんでしょう……?」
「本日は呉服屋として参りました。兄が来る予定だったのですが、今回風邪が長引いていて、僕が代役として伺った次第です」
「えっと……来客でしたら母が対応していたはず……」
「奥方ならご近所の方とご歓談されています。僕は厠を借りた帰りで、ここから唸るような声が聞こえてきたものですから」
気になって、と声が小さくなる。
(う、唸っていたところを聞かれるなんて。ああもう、恥ずかしい!)
今にも逃げ出したいところだが、そんなわけにもいかない。どうすればと困っていると、ふと視線を感じた。顔を上げると、自分の後ろに視線があることに気がつく。



