「……そうなんですか? というか、お店をされているのですか?」
初耳だ。できれば、もっと知りたい。
目を輝かせて見上げると、詠介はかしこまったように背筋を伸ばした。
「うちは代々呉服屋をしているんです。規模はあまり大きくないのですが、父と兄が店を切り盛りしていて。従業員も優秀すぎて、僕の仕事がほとんどなくなることも少なくないんですけどね。とはいえ、そのおかげで趣味の時間が取れているわけですが」
恥ずかしそうに頬をかいている様子を横目で見ながら、呉服屋という単語を頭で反芻する。何かが頭にひっかかっている。
(呉服屋なんて珍しくはないけれど……)
ぐるぐると考えるが、あともう少しのところで答えに行き着かない。じれったい思いで、彼の苗字とその単語を合わせたところで、ふとひらめく。
「……あ、佐々波呉服屋なら、うちもお世話になっています。確か、季節ごとに家まで反物や小物を持ってきてくれて……」
「それなら上得意様ですね。訪問販売は兄の管轄なんです。これからもどうぞご贔屓に」
花がこぼれんばかりの笑顔にあてられ、絃乃は膝から力が抜けた。そのまましゃがみこむと、焦ったような声が降り注ぐ。
「どうしました? 何か変なことを言ってしまいましたか?」
「……いえ、逆です……」
「逆?」
「なんでもないです。気にしないでください」
まさかのご褒美に動揺しただけです。
心の中でそう返し、詠介の手を借りて起き上がった。
頭上では夏鳥が悠々と旋回し、一陣の風が吹き抜ける。体が火照っていると感じるのは気温のせいだけではなかった。
初耳だ。できれば、もっと知りたい。
目を輝かせて見上げると、詠介はかしこまったように背筋を伸ばした。
「うちは代々呉服屋をしているんです。規模はあまり大きくないのですが、父と兄が店を切り盛りしていて。従業員も優秀すぎて、僕の仕事がほとんどなくなることも少なくないんですけどね。とはいえ、そのおかげで趣味の時間が取れているわけですが」
恥ずかしそうに頬をかいている様子を横目で見ながら、呉服屋という単語を頭で反芻する。何かが頭にひっかかっている。
(呉服屋なんて珍しくはないけれど……)
ぐるぐると考えるが、あともう少しのところで答えに行き着かない。じれったい思いで、彼の苗字とその単語を合わせたところで、ふとひらめく。
「……あ、佐々波呉服屋なら、うちもお世話になっています。確か、季節ごとに家まで反物や小物を持ってきてくれて……」
「それなら上得意様ですね。訪問販売は兄の管轄なんです。これからもどうぞご贔屓に」
花がこぼれんばかりの笑顔にあてられ、絃乃は膝から力が抜けた。そのまましゃがみこむと、焦ったような声が降り注ぐ。
「どうしました? 何か変なことを言ってしまいましたか?」
「……いえ、逆です……」
「逆?」
「なんでもないです。気にしないでください」
まさかのご褒美に動揺しただけです。
心の中でそう返し、詠介の手を借りて起き上がった。
頭上では夏鳥が悠々と旋回し、一陣の風が吹き抜ける。体が火照っていると感じるのは気温のせいだけではなかった。



