乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 梅雨明けは例年より数日遅かったものの、作戦決行の日曜日は快晴だった。
 よく晴れた空には雲一つない。絃乃は死角になる茂みに隠れ、公園の入り口を見張っていた。その横で詠介が同じように身をかがめ、待ち人の姿を探していた。
 通りの向こうから(くるま)が一台やってきて、若草色のワンピース姿の女性が降り立つ。つばの長い白い帽子に日傘を差す様子は、まさしくお嬢様といった風情で、展示絵に出てきそうな構図だ。
 百合子はそのまま公園に入り、気ままに歩き出す。
 その様子を見届け、植木に溶け込んでいた詠介が振り返る。

「……今のところ、作戦は順調そうですね」
「はい。あとは園内にいる藤永様と出会えば、作戦どおりです」

 八尋は十分前に到着し、鯉に餌をあげているはずだ。

(てっきり洋装かと思っていたけど、縞の着物に黒い羽織姿もかっこよかった。やっぱり、イケメンは何を着ても似合うわ)

 一人頷いていると、パナマ帽を被った詠介が立ち上がる。続いて、絃乃も日傘を差して横に並ぶ。
 季節は夏本番。今日は夏銘仙(めいせん)に名古屋帯、珊瑚の帯留めで、着物に描かれた流水と金魚が夏らしさを出している。夏によく着る、お気に入りのひとつだ。
 照りつける太陽に目を細め、詠介が額の汗を手で拭った。

「そういえば、絃乃さんは百合子さんをどうやって呼び出したのですか?」
「……今日の十時に水辺の公園を散歩すれば、待ち人現るという恋占いの結果を教えたぐらいで……。詠介さんこそ、どうやって誘導したんです?」
「僕も似たようなものですよ」

 百合子は女学校でも悩んでいるようだったし、素直な気持ちを打ち明けて、二人の関係性を明確にできるようになったらいいと思う。
 野次馬で見に行きたい思いを押しとどめていると、詠介が池の方向を見ながら口を開く。

「あとは二人に任せるしかないですね」
「そうですね。私たちができるのはここまでですね」

 頷き合い、そろりそろりと後退する。
 大きな辻を右に曲がり、しだれ柳の木陰をゆっくり歩く。

「ところで、詠介さん。話は変わるのですが、この近くに住んでいる書生に心当たりはありませんか?」
「書生ですか? どこの書生でしょう?」
「……いえ、ちょっと聞いてみただけです……ごめんなさい」

 大正の世では、大きな屋敷に下宿して勉学に励む書生は、決して珍しい存在ではない。

(結局、書生が出てくるルートをやっていないから、どう物語に絡んでくるかも謎のままだし……そもそも情報が少なすぎるのよね)

 遠くの空を見つめていると、黙っていた詠介が口を開く。

「書生といえば、うちの店にも一人いますよ」