乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 言われた内容がすぐに頭に入ってこず、面食らっていると、詠介がたたみかけるように言う。

「僕も、あの二人はお似合いだと思います。ただ、このままだと関係が進みそうにないので、ここは協力しませんか?」
「協力……って何をするんですか?」

 混乱しつつも言葉を返すと、まっすぐと正面から見つめられる。

「百合子さんの恋愛がうまくいくよう、こっそり手助けをするんです。絃乃さんは、今の状況をどこまで把握されていますか?」
「ええと……、雪之丞様と藤永様との三角関係で悩んでいるんですよね。雪之丞様からは積極的にアプローチが続き、困っているところを藤永様が助けてくださっているとか。……藤永様と婚約すれば話は早いと思いますが」

 詠介は鷹揚と頷き、司令官のように両手を重ね合わせて、深刻な面持ちで語る。

「仰るとおりです。ただ、百合子さんは自分に自信がないようです。つり合いが取れていないから、と縁談の申し込みも保留にされています。僕もできる範囲で励ましているのですが、あまり効果はないようで。そこで、絃乃さんの出番です」
「わ、私ですか……!?」

 突然のご指名に戸惑っていると、はい、と肯定が返ってくる。
 思わぬ方向へ話が進んでいるようで、知らず焦りが募る。しかし、タイムを要求する前に詠介が真剣な顔つきで言葉を続けた。

「古典的ですが、二人をそれぞれ同じ場所に呼び出すんです。百合子さんは絃乃さんが、藤永さんは僕が呼び出します」
「それで、二人を強引に引き合わせるということですか」
「はい。少しくらいは荒療治が必要だと思いまして」

 記憶が正しければ、散歩中に偶然出会うというイベントがあった気がする。どうやら、それを再現しようということらしい。

「……わかりました。日時はいつにしますか?」
「そうですね。梅雨明けの日曜日、時間は午前中がいいかと思います。日が高くなると、日傘があっても暑いでしょうから」

 ふんふんと頷き、絃乃は脳内のメモに走り書きをする。
 偶然を装った再会を果たすシーンを想像し、二人のセリフを思い出す。

(びっくりしながらも挨拶を交わして、一緒に公園を歩くのよね……。だけど、ここはもう一つスパイスがほしいわね)

 刺激の強くない、ちょっとしたスパイス。とりとめない会話から脱却するための話題作り。そこまで考えたところで、ふと妙案が浮かぶ。
 勢いのまま前のめりに身を乗り出すと、詠介が驚いたように身を引く。

「それだったら、二人とも服装を変えてみるというのはいかがでしょうか。藤永様の軍服もすてきですが、私服姿も違った一面が見えて新鮮かもしれません!」

 ゲームの仕様では、八尋の姿はほぼ軍服だった。悪くはないが、ひねりはほしい。ゲームに介入できるのなら、彼の私服姿も見てみたいというのが本音でもある。

「一理ありますね。では、そうするように働きかけてみましょう」
「……失礼ながら、詠介さんは藤永様のお友達なのですか?」

 単純な疑問だったが、詠介はきょとんと目を丸くし、口元にそっと人差し指をあてた。

「企業秘密です」

 そのキーワードがすべてを物語っている気がした。おそらく、ゲーム案内役だからこその特権なのだろう。
 深くは考えないようにして、ヒロインらぶらぶ大作戦の詳細を詰めた。