(はあ……美味しい……)
きな粉も上品な甘さがあり、やわらかさと弾力のあるお餅が口の中で溶けていく。梅雨でじめじめとした気分が晴れていき、美味しさに吐息がもれる。
「本当に美味しそうに召し上がりますね」
「す、すみません……」
「申し訳ありません、これでも褒めているつもりだったのですが。とはいえ、絃乃さんとは浅からぬ縁があるようですね。ちょうど、どうしているかなと思っていたところでした」
内緒話のように告白され、絃乃の心拍数が急上昇した。
(こ、これ、気にかけてもらったってことでいいのよね?)
まさか彼も同じ気持ちだったとは。少しは仲良くなれたと思ってもいいのでは?
気持ちが浮ついたまま、絃乃はかねてより考えていたことを口にした。
「あの! ご迷惑でなければ、下の名前でお呼びしてもいいですか?」
「え?」
「で、ですから。呼び方を……」
言い直そうとすると、詠介が焦ったように声をかぶせてくる。
「ああ、いえ。それはもちろん、構いません。ただ、どうしてかなと……」
彼の疑問はもっともだ。
この時代、異性を名前で呼ぶのは身内か婚約者に絞られる。まだ会って数回の曖昧な関係で呼ぶのは不自然だった。
絃乃は素早く脳内で対策を講じ、彼が納得できる理由を口に出す。
「私は名前で呼んでもらっていますし、苗字で呼ぶと距離があるような感じがして」
「なるほど。言われてみれば、そうですね。じゃあ、呼んでもらってもいいですか?」
他意のないような顔でそう言われて、絃乃は一瞬言葉を失う。
頭で言葉の意味をかみ砕き、理解が追いついたところで、口からは間抜けな声がもれた。
「へ?」
「せっかくですから。今、呼んでいただければと」
「……え、詠介、さん……」
たどたどしく発音すると、詠介は考えるように沈黙した後、パッと明かりが灯ったような笑顔を見せた。
「絃乃さんに名前を呼ばれると、くすぐったい気分になりますね」
「……っ」
悶絶しそうになるのを必死にこらえ、空咳でごまかす。
「そ、そういえば。詠介さんは百合子のことはご存じですよね?」
「桐生院家のお嬢様のことですか?」
「はい」
共通の話題を持ち出しただけだが、詠介は不思議そうに首をひねる。
「ええ、まあ。確かに知り合いですけど。どうしてわかったんです? 彼女と会話をするとき、誰もいないと思ったんですが」
ギクッと身をすくませる。
確かに攻略のサポートで彼が現れるときは、時が止まっている。案内役は他の人に見えない。だから普通はできない助言ができるのだ。
彼が陰ながら助言をしているのを知っているのは、前世の記憶があるに他ならない。
けれども、その事実をありのままに伝えるわけにもいかない。運がよければ、そのまま信じてもらえるかもしれないが、基本的には危ない人扱いをされるのが関の山だ。
(どうしよう……何かいい言い訳はないものかしら……)
きな粉も上品な甘さがあり、やわらかさと弾力のあるお餅が口の中で溶けていく。梅雨でじめじめとした気分が晴れていき、美味しさに吐息がもれる。
「本当に美味しそうに召し上がりますね」
「す、すみません……」
「申し訳ありません、これでも褒めているつもりだったのですが。とはいえ、絃乃さんとは浅からぬ縁があるようですね。ちょうど、どうしているかなと思っていたところでした」
内緒話のように告白され、絃乃の心拍数が急上昇した。
(こ、これ、気にかけてもらったってことでいいのよね?)
まさか彼も同じ気持ちだったとは。少しは仲良くなれたと思ってもいいのでは?
気持ちが浮ついたまま、絃乃はかねてより考えていたことを口にした。
「あの! ご迷惑でなければ、下の名前でお呼びしてもいいですか?」
「え?」
「で、ですから。呼び方を……」
言い直そうとすると、詠介が焦ったように声をかぶせてくる。
「ああ、いえ。それはもちろん、構いません。ただ、どうしてかなと……」
彼の疑問はもっともだ。
この時代、異性を名前で呼ぶのは身内か婚約者に絞られる。まだ会って数回の曖昧な関係で呼ぶのは不自然だった。
絃乃は素早く脳内で対策を講じ、彼が納得できる理由を口に出す。
「私は名前で呼んでもらっていますし、苗字で呼ぶと距離があるような感じがして」
「なるほど。言われてみれば、そうですね。じゃあ、呼んでもらってもいいですか?」
他意のないような顔でそう言われて、絃乃は一瞬言葉を失う。
頭で言葉の意味をかみ砕き、理解が追いついたところで、口からは間抜けな声がもれた。
「へ?」
「せっかくですから。今、呼んでいただければと」
「……え、詠介、さん……」
たどたどしく発音すると、詠介は考えるように沈黙した後、パッと明かりが灯ったような笑顔を見せた。
「絃乃さんに名前を呼ばれると、くすぐったい気分になりますね」
「……っ」
悶絶しそうになるのを必死にこらえ、空咳でごまかす。
「そ、そういえば。詠介さんは百合子のことはご存じですよね?」
「桐生院家のお嬢様のことですか?」
「はい」
共通の話題を持ち出しただけだが、詠介は不思議そうに首をひねる。
「ええ、まあ。確かに知り合いですけど。どうしてわかったんです? 彼女と会話をするとき、誰もいないと思ったんですが」
ギクッと身をすくませる。
確かに攻略のサポートで彼が現れるときは、時が止まっている。案内役は他の人に見えない。だから普通はできない助言ができるのだ。
彼が陰ながら助言をしているのを知っているのは、前世の記憶があるに他ならない。
けれども、その事実をありのままに伝えるわけにもいかない。運がよければ、そのまま信じてもらえるかもしれないが、基本的には危ない人扱いをされるのが関の山だ。
(どうしよう……何かいい言い訳はないものかしら……)



