ドアを開け、入ってきたのは冬哉。


「忘れ物」


要件を問う前に差し出されたのは、英語の教科書。

そうだ、一度返そうとしてくれたのに、ママが帰ってきたことでバタバタして、そのまま置きっぱなしになってた……。


「あ、ありがと」


お礼を言って、今度こそちゃんと受け取る……けど、冬哉はそのまま動かない。


「……なに?」

「いやそれ、こっちのセリフだし」

「え?」

「さっきの続き。部屋で何か言おうとしてただろ。続き、聞きにきたんだけど」

「っ! そっ、れは……」


まさか冬哉の方から来るとは思わなかった。

心の準備が出来ておらず、ドキドキと心拍数が上がる。

だけど肝心の言葉は出てこなくて、そのまま黙ってしまっていると──。


「なに、あそこまで言っといてお預け食らうわけ?」


あたしの目の前にしゃがみ込んで、冬哉が言った。