占いお宿II 新たな契りを結ぶ時

「よかった……」

気付けば2人ともずぶ濡れで、私の心配をしたルーカスは、それはもう大切なものを扱うかのように優しく抱き上げて、風呂場へ運んだ。羞恥心で真っ赤になりながらも、されるがまま、大人しく運ばれていた私。風邪をひくといけないからと、ルーカス自らお湯を用意して……って、

「ル、ルーカス、なんであなたがまだいるの?」

あろうことか、私の服を脱がそうと手を伸ばしてきた。

「番の世話をするのは、番の役目」

「いやいやいや。ちょっと待って。私、あなたの番になったわけじゃないわ」

この人、なに言ってるの?慌てて、捲り上げられそうになっていた服の裾を掴んで阻止する。

「ライラは俺のことを愛していると証明された。つまり、番ってことだ」

「えっと……ルーカス、確かにその気持ちは自覚したわ。目に見える形で証拠もあったし。けれど、番うかどうかは別の話よ」

〝なんだって!?〟なんて、心底驚いた顔をされるけど、それはこっちのセリフだ。どうしてそうなる?まあ、多少往生際が悪いのは感じてるけど。

「ライラは、好きになった相手と番わないのか?」

「それは……」

「逆に、好きでもない相手と番えるのか?」

それは否定できない……いや、できなかったという、過去形かな。貴族の令嬢だったら、結婚に自由はなかったから。
ん?ということは、庶民である今は自由なわけで、お互いに惹かれ合っているのなら……

いやいやいや。とはいえ、彼は一国の王子なのよ。そう簡単に頷ける話ではない。


「ルーカス、あのね、私は今、自分の気持ちを自覚したばかりなの。その……そんな急に言われても……」

「問題ない」

「そうじゃなくて、あなたは一国の王子なのよ。いくらなんでも、その相手が身分もなにもない私だなんて……」

ずいぶん今さらだけど、言わずにはいられない。

「獣人の世界では、そういうものだ。現王妃だって、元は町娘だった。身分は関係ない。番かどうかだけだ」

「……で、でも……くしゅん」

「ライラ、風邪ひくぞ。とりあえず風呂だ」

「ま、待って。わかったから。ちゃんと入るから。心の準備っていうものがあるの。いきなり一緒には無理。とりあえず、自分で入らせて」

はあはあと息を上げてしまうぐらい、勢いよく捲し立てると、ルーカスはぶつぶつと不満を言いつつ、それでも私に風邪をひかせるわけにはいかないからと、渋々出ていった。