* * *

「ライラ、父上の居場所を教えてくれ」

「え?」

ルーカスが私の父の居場所を知りたいって……

「やられた。シュトラスの侵入者が、緩衝地帯に現れた。どうやら、獣人を警戒したのか、南から迂回してきたようだ。サンミリガンは必要最低限しか入っていない」

それではいくら警備を強化しても、サンミリガン国内で捕まえるのは難しそうだ。そもそも、なにもしてない相手を捕まえることはできないのだけど。
 
「おまけに、よく考えれば、爪を黒く塗っていない侵入者もいるんだ。すでにグリージアに入っている可能性がある」

つまり私が占ったことで、その情報に頼りすぎて本質を見誤ったということ?私の占いのせいで……マリアーナが色を変えて印象が変わったのと同じく、侵入者に対する先入観が邪魔をした。

「違うぞライラ。占いのせいじゃない。俺達がその可能性を見逃していたってだけだ。そもそも、ライラのくれた情報がなければ、不審な侵入者が国境にたどり着くことすら掴めてなかったんだ」

「……そう。父の居場所は……」

ルーカスは、アルフレッドとマリアーナ達が滞在しているはずの私の父の元へ、すぐさま鳥の獣人、アドルフを飛ばした。アドルフなら、アルフレッドと面識があるし、いざとなれば人型とって、グリージアの人とやりとりもできる。


今だにヨエルからの連絡も、彼に関する情報もなにもない。安心材料は一つもないどころか、不安ばかりが増していく。

「ルーカス……」

「ライラ、心配するな。アルフレッドはああ見えて、優秀な王太子だ。マリアーナを守り切ってくれるはずだ」

「そうね……うん。アルフレッドは、昔からなににおいても優れていて……」

「ライラ!!」

狼狽える私を、ルーカスがぎゅっと抱きしめた。動揺しすぎて、彼の抱擁を拒否することもできず、されるがままになってしまう。

「大丈夫だ、ライラ。それに……」

言い澱むルーカスを、その腕の中から見上げた。彼の瞳は、複雑に揺れている。

「ライラが動揺するのもわかるけど、自分の番が他の男を堂々と褒めるのは、なんともおもしろくない」

いつもなら、こんな冗談なんてヒラリとかわせるのに、なんでだろう……今はそれができない。自分の占いの及ぼした影響とか、ヨエルやマリアーナ達の心配、それから……本来の姿になれないルーカスの苦悩。それら全てが、私の心を乱す。

「ライラ?」

「ごめんね、ルーカス」

「大丈夫だから」

思った反応と違ったからだろうか?ルーカスが優しく頭を撫でてくれる。いまはこの、温かかくて大きな手に縋るしかなかった。