占いお宿II 新たな契りを結ぶ時

「……政略的な駒が必要になった、可能性はあるな」

アルフレッドが低い声を発する。彼にしては珍しく、隠しきれない怒りが滲み出ている。まあ、それが理由だとしたら、私も許せないと思ってしまうけど。

「政略的駒……有力貴族や他国と手を結ぶために嫁がせるってことか?ありえん!!」

やっぱり、ルーカスには理解に苦しむことなのだろう。獣人には考えられないことだろうから。

「でもね、ルーカス。人間ならあり得ることよ」

「ああ。サンミリガンではないってだけで、そういう話があることは知ってるが」

「なにか、政略結婚が必要な事情でもできたのかしら?」

それについて、ヨエルは答えを持ち合わせていなかった。国を離れてしばらく経ってしまい、今、シュトラス王国の内情がどういう状況なのな、さっぱりわからないという。

「……俺が、シュトラスにもどって探りを入れてみる」

「ヨエル!!」

ヨエルの提案を遮るように、マリアーナが声を上げた。状況がわからない上に、国王が王妃とヨエルの不貞を疑っている以上、今彼が国にもどるのは危険だ。マリアーナが不安そうな顔をしているのもわかる。

「マリアーナ、俺は大丈夫だ。それに、誰かがシュトラスに行くとしたら、事情を知っている俺が適任だ」

なにも起こっていない状況で、グリージア王国が動くことはできない。サンミリガンとて、今はまだ国防の強化しかできないだろう。たとえトールキャッスルまでの侵入を許してしまう未来を知っていたとしても。

「ライラ、ドリー。俺のいない間、マリアーナを預かって欲しい」

「かまわんよ」
「マリアーナはこのお店の戦力だもの」

私達の返しに、ヨエルは満足そうに頷いた。2人で国を飛び出して以来、マリアーナをおいていくのははじめてのことだろう。少しでも力になりたい。

「アルフレッド、ルーカス。俺がいない間、マリアーナを守ってやって欲しい」

「もちろんだ」
「ああ」

2人も即答した。


時間はあまりない。簡単な打ち合わせをすると、翌朝早く、ヨエルはシュトラスに向かって出発した。

「ライラ、ん」

不安そうなマリアーナを気遣ったのか、グノーが私達に甘いココアをいれてくれる。

「ありがとう、グノー」

今日ばかりは、〝俺の番に求愛給餌をするな!!〟と噛み付かなかったルーカス。

一体、この後どうなっていくのだろうか……


ルーカスの計らいで、数日のうちにサンミリガンの西の国境を出たヨエル。彼に関する情報が得られるのは、ここまでだ。