占いお宿II 新たな契りを結ぶ時

「幸せそうに……本当ですか?」

「ええ。あなたも奥様も。きっと今は秘密にしていることがあったとしても、奥様なりに理由があってのことだと思います。あなたも、浮気を疑ってるわけじゃないっておっしゃったじゃないですか。信じて待ってあげてください」

「そ、そうですよね。妻から雄の匂いなんてしないんですし……よし、男らしくどっしりかまえて待ちます」

「はい。そうしてください」

よかった。少しは安心してもらえたみたいだ。

それにしても、〝雄の匂い〟だなんて、獣人らしい表現だわ。嗅覚の優れた獣人にしてみれば、番に少しでも他の異性の匂い付くと苦痛で仕方がないらしい。


「ライラ!!やっと出てきた。くそっ。さっきのウマの匂いがする」

占いを終えて食堂にもどった早々に、待ちかまえていたルーカスに捕まってしまう。こちらの意思を無視してガバリと抱き付くと、まるで匂いの上書きをするように、私の首筋に頭をグリグリと擦り付けてくる。

「ちょっと、ルーカス!!」

最初こそ、依頼客に失礼だと注意していたけれど、誰彼かまわず、時と場に関係なく私を番だと公言しているから、客の方も慣れたものだ。不快感を表す人は、今のところいない。

「ルーカス、この後雨が降るみたいよ」

「なんだって!!」

ちらりと見た天気予報を伝えると、途端に狼狽出した。

「濡れに行くべきか……いや、姿が変わっても、口付けされなかったらしばらくカエルのままだし……」

ぶつぶつ言ってる姿は、少しだけ可愛くもある。なんて思ってしまったのは、彼に対する同情からかしら。
でもね、クリクリの目をしたドブ色のカエルは、さすがに無理よ。ドリー曰く、魔女はロマンチックでいたずら好きらしいけど、私にしてみれば悪趣味だとしか思えない。
ドブ色で、ぬめぬめのカエル。いくらルーカスを気の毒に思っても、呪いを解くことに協力する勇気はない。そもそも、条件である〝愛する女性〟がネックだ。親愛の情では、口付け損になりかねない。