占いお宿II 新たな契りを結ぶ時

アルフレッドとヨエルは、部屋に控えていた側近も交えて、早速仕事の話をはじめた。その間に、マリアーナに仕事の詳細を説明しながら、建物の中を案内していく。なんと、厨房担当で人嫌いのグノーが、初日から彼女に姿を見せてくれた。

「ん」

「なあに、グノー」

相変わらず言葉数の少ないグノー。けれど、その本質は心優しい青年だ。
突き出した彼の拳の下に自分の手を広げると、ポトリと落とされたのは2個のキャンディ。

「私とマリアーナの分ね?」

「ん。ライラの友達だから」

「グノー!!」

久しぶりに聞く5文字以上の言葉に感激して、思わず彼の手を握った。

「おい、こらグノー!!俺の番から離れろ」

喚くルーカスは、無視だ無視。

「ありがとう、グノー。はい、マリアーナ」

「ありがとうございます。グノーさん、これからよろしくお願いします」

「ん」





* * *

「いらっしゃいませ」

「お、マリアーナちゃん。もうすっかり慣れたみたいだね」

「はい。いつもありがとうございます」


ヨエルとマリアーナがここへ来て、もうすぐ1ヶ月が経つ。マリアーナは、店の仕事も常連客にもすっかり慣れて、笑顔が増えた。日中はヨエルが働きに出ているせいか、まるで彼の代わりに自分が保護者だと言わんがごとき、アルフレッドが食堂に居座ることが増えた。

「ライラ……とっ、接客中か。マリアーナ、すまないがお茶を頼む」

「はい!!」

アルフレッドの方から普通に声をかけるから、マリアーナも彼のことを王太子だとかまえることなく、自然体で接している。

「ライラ!!きびきびと働く姿もいいなあ。さすが俺の番だ。愛してる」

「はいはい。ありがとう、ルーカス」

最初こそ、いちいち反応していたルーカスの求愛も、毎日となれば右から左へ流れていくというもの。

「ふふふ。ライラさん、すごいです。愛の告白を流しちゃうなんて」

「だって、毎日なのよ。〝愛してる〟の安売りはよくないわ」

「違うぞ、ライラ。繰り返し言葉で伝えることに意味があるんだ。それは安売りじゃない。積もり積もれば大きな真実が見えてくるんだ」

「ルーカスさん、その考えって素敵ですね」

「だろ。さすがライラの友人だな」

マリアーナとルーカスの関係もまた、フランクだ。店内で、王族2人がこんなふうにやりとりをしているものだから、他の客も微笑ましく眺めながら、ますます和気藹々としている。