占いお宿II 新たな契りを結ぶ時

「静かに暮らせるのなら……マリアーナの幸せが見つけられるのなら、そこで落ち着こうと思っていた。それにはまず、大陸を出て国から離れなければと思っていた。移動しながら日雇いで金を稼ぎ、身分を偽ってなんとか国境を超えて、やっとここまで来た。まだ未成年のマリアーナを連れ歩くのに手間取って、思いの外時間がかかってしまった」

「ごめんね、ヨエル」

思わず小声で謝るマリアーナに、〝そういうつもりじゃない〟と、優しい笑みを返したヨエル。

「これからどうするのか、当てがあるわけでもないし、予定があるわけでもないのね?」

「ああ」

彼らはここで一晩明かしたら、また旅に出るつもりなのだろう。でも、予定がないのなら私が引き止めたってかまわないはず。

「せっかくここまで来たんだもの。少しだけ、ここに留まってみない?」

ドリーの許可もないまま、思わず提案していた。まあ、何も言ってこないところを見れば、ドリーだってそうすることにやぶさかではないのだろう。
ヨエルからすぐに返事がないということは、迷う余地があったということだろう。思案する様子を、じっと見つめた。

「ミランダがいなくなってしまったしなあ……」

カウンターからおもむろに呟いたドリーに後押しされて、さらに言葉を重ねる。

「そうよ。ここの従業員の1人が辞めてしまって、人手が足りないの。マリアーナが手伝ってくれると助かるわ」

「え?」

戸惑いを見せるマリアーナに笑みを向ける。彼女は使用人の仕事をしてきたのだし、きっとヨエルとの旅で生活の能力も高いはず。

「ここなら、寝るところも食事も困らないわ」

ダメ押しの提案だ。私もこれで、ここに居座ることを決めたのだったと思い出す。

「もちろん、経費を差し引いた給金も出すぞ」

「ちょうど、グリージアの国境で……ああ、森を抜けたすぐそこなんだが、人手が足りなかったな。サンミリガンとの交流が盛んになってきて、見張りを強化する必要がある。特に争い事が起こるようなことはないだろうが、それでも国境だ。腕の立つ人間を集めている」

アルフレッド、いい提案をしてくれるじゃないの。マリアーナだけじゃなく、ヨエルの働き口もあるのなら言うことなし。雇い主が王太子とあれば、確かな仕事だ。