「ライラ、腹減った」

そんな店内の微妙な空気を察しもせず、その身分らしからぬ口調で現されたルーカス。私やアルフレッドが非難の目を向けるのも、当然のことだ。

「なんだ、この新婚ふうな声かけは……」

ジロリと睨むアルフレッド。あなたがルーカスに向けた非難の目は、そんな意味だったのか……思わずため息を吐いた。

「ライラは俺の番だ。問題ない。ああ、ライラ。今夜も可愛い」

抱き付いてこようとするルーカスを、ヒラリとかわす。この2人の存在は、やっぱり営業妨害だ。
常連さんにしてみれば、すっかり見慣れた光景になっていて、いつも生温かい目を向けられている。けれど、初めて目にしたヨエルは……ますます険しい顔をしていた。



「あれ?もしかして、ヨエルか?」

私にかわされた先で、席に座っていた人物を目に留め、一瞬考えてからルーカスが呟いた。

「ということは、マリアーナ?」

あちゃ……
ルーカス、空気を読んでよ。

「おまえ達。さっきからなんだ?」

ヨエルが僅かに気色ばむ。その右手が、腰に下げられた武器に添えられた。マリアーナはますます不安そうに視線を彷徨わせている。こちらの正体や真意がわからない以上、自分達がヨエルとマリアーナだと認める気はなさそうだ。

「ル、ルーカス」

思わず、引き留めるようにルーカスの腕を掴む。その手をちらりと見たルーカスは、私を振り返ってにっこりと微笑んだ。

「番であるライラから触れられるなんて、最高な気分だ」

いや、今それ必要ないから。

「ヨエル、その右手を引っ込めてくれないか?」

ふざけたかと思えば、蕩けた顔をシュッと引き締めたルーカスは、鋭い一言を放った。もしかしてルーカスは、現状をわかった上で、わざとああいう軽い雰囲気を醸し出したのだろうか?