それは、突然のことだった。

「いらっしゃいま……」

夕方、陽が傾きかけた頃、男女2人組の客がやってきた。その顔を見て、固まってしまった。思わず目を見開いて、2人を凝視してしまう。私の不躾な視線に、男の方は疑わしげな視線を返してきた。


「……マリアーナ……?それから……ヨエル?」

思わずもらすと、手前に立っていた男性の目つきが険しくなった。

「ライラ?」

ただならぬ空気を察したのか、アルフレッドが声をかけてくるが、それどころではない。
ヨエルの睨むような視線と、不安げなマリアーナの様子に確信した。間違いなく、水晶で見た2人だ。

「誰だ?人違いじゃないか?」

警戒を解かないままヨエルが言うけれど、人違いなわけがないことは、私にはわかる。けれど、どう切り出したらいいのか……

「ライラ、入ってもらいな」

助け舟を出してくれたのは、ドリーだった。

「あっ、ええ、そうね。ごめんなさい。どうぞ、お入りください」

ヨエルは一瞬躊躇したものの、ざっと中を見回すと店内に足を踏み入れた。
この時間から再び森の中を抜けて、他の宿を探すことの危険さや大変さを考えたら、ここを利用した方がよいと判断したのかもしれない。

2人の様子をじっと見つめていたドリーは、ヨエルの後ろからついてくるマリアーナに注目した途端、〝ほおう〟ともらしながら片眉を上げた。
真実を見る力を持つドリー。かつては、何も語らないうちに私が無実であることを見抜いていた。それに、人型をとっていても獣人を見分けることもできる。きっと、マリアーナの本当の瞳の色が、ドリーには見えたのだろう。

「こちらへどうぞ」

〝食事と宿を〟と、必要最低限の言葉しか発しないヨエル。不用意に2人の名前をもらした私を、かなり警戒しているようだ。もう少し慎重に接するべきだったけれど、仕方がない。