「ローズベリー伯爵もまた、なにも言わないまま潔く職を辞し、王都を出ることを早々に決めていた。まだ証拠は掴めていないとはいえ、事実がわかった時点で、陛下共々謝罪し、彼を引き止めた。しかし、伯爵は謝罪を受け入れた上で、それでも王都を出る考えは変えなかった。ただ一つだけ、条件を残して」

「条件……?」

「ああ。いつか、セシリアの無実を国中に公にできた時、ローズベリー家を甥に継がせたいと。その時に噴出するであろう批判や好奇の目を、王家が後ろ盾となって潰して欲しいと」

お父様……
父は、貴族としての役割を十分に果たしていた。仕事ぶりもその振る舞いも、周りから好感を持たれていたことは、アルフレッドからも当時教えてもらっていた。
しかし、本来の父は腹の探り合いのような貴族の世界よりも、野菜や花を育ててのんびり過ごすことの方が、自分には合っていると常々話しているような人物だ。きっかけは残念なものだったとはいえ、願いはちゃんと叶えられたはず。

「もちろん、その条件は受け入れた。今ローズベリー伯爵家は、伯爵の言った通り彼の甥が継いでいる。とにかく優秀な男で、王家の後ろ盾を得てまで継がせたがった理由がわかったよ。甥の仕事ぶりを見届けると、お父上は田舎へ越していった」

「……そうでしたか」

なにか言わなければいけない気がした。けれど、やっぱり言うべきことがわからなくて、相槌程度になってしまう。自分の立ち位置が、ライラなのかセシリアなのか明確にできず、ますます身動きが取れなくなってしまう。

「グリージア王国内では、セシリア・ローズベリーの名誉は回復されている。それだけはなんとしても認めさせなければと思って……すまなかった。私が未熟だったが故に、1人の女性の人生を狂わせてしまった。本当に、申し訳なかった」

側近の目がある中、王太子であるアルフレッドは躊躇いもなく、私に頭を下げた。