占いお宿II 新たな契りを結ぶ時

それから水晶は、数年後のマリアーナを映し出していた。5歳ぐらいだろうか?赤ん坊の時に想像した通りの美少女だ。ダークブラウンの波打つ豊かな髪は、惚れ惚れするほど美しく、色白な彼女によく映えている。ぱっちりした大きな瞳は……

「え?どういうことなの?」

髪と同じ、ダークブラウンだった。

瞳の色が変わった?そんなこと、あり得ることなのだろうか?ううん。あるはずない。成長と共に、髪や瞳の色が多少変化することはあっても、ここまでガラリと変わることなんて、見たことも聞いたこともない。

マリアーナは、相変わらずあの質素な離れで暮らしているようだ。そこには、幾分歳を重ねた乳母と……王妃の姿が見えない。留守にしているだけなのだろうか?それにしてはマリアーナも乳母も、暗い表情をしているんだけど……

「マリアーナ、すまない。開けるぞ」

ノックもままならないまま入ってきたのは、少し大人びた顔付きになった王子だった。

「お兄様!!」

愛らしいその顔は、その瞬間、涙に濡れていた
。それを見た王子も、瞳が潤みそうになっていた。けれど、彼は懸命にそれを堪え、妹を見据えた。

「母上は……天国へ……」

王妃が亡くなった。
水晶の見せる世界にすっかり入り込んでいた私まで、胸がズキリと痛んだ。

「病に苦しんだとはいえ、その苦しみが長引かなかっただけ、よかったのかもしれない」

マリアーナはコクリと頷いた。

「マリアーナ、今すぐ身の回りの荷物をまとめるんだ。母上がいなくなった以上、マリアーナの後ろ盾となるものはなにもない。私ではまだ、マリアーナを守ってやれない。悔しいが、力が足りない」

表情を歪める王子。
不義の子を疑われるマリアーナの居場所は、これでなくなってしまったのかもしれない。

「2人で一緒に、今すぐ行ってくれ。いつか、私がもっと力を付けた時、必ず迎えに行く。それまで、待っていてくれ」

王子はいくらばかりかの金貨を持たせると、密かに用意したであろう馬車に、マリアーナと乳母を乗せた。2人を乗せた馬車が見えなくなるまで、ずっと見送っていたその背中は、小さく震えていた。