「懸念事項は全てなくなった」

「……のようね」

私の目の前で、ルーカスが足を止めた。客達の食事をする手も止まり、あれだけ賑やかだった店内は、いつの間にか沈黙に包まれている。この緊張感は、ちょっと心臓によろしくない。

今の私は、まさしくオオカミに狙われた獲物。逃げ場が見つからない。言い訳のネタも尽きた。いいえ。逃げたかったわけじゃなくて、物理的な準備と、心の準備をする時間が必要なだけだったのよ。

一体、この場でなにをされるのか。呼吸すら忘れてルーカスを見つめていた。

ルーカスは、私から少しも目を逸らさないまま、その場にさっと跪いて、そっと私の手を取った。思わずビクリとしたものの、なんとかその場にとどまっている。


「ライラ・ガーディアン」

「は、はい」

ルーカスがこれまでになく熱い視線を向けてくる。

「ライラ、俺の番。誰よりも、なによりも愛してる。どうか俺の番になって欲しい」

一音も無駄のないストレートな告白に、胸がドクドクと打ち付けてくる。
シーンとして成り行きを見守る客達の視線が痛いぐらいなのに、それを気にかける余裕はない。

もう降参だ。

「はい」

緊張のあまり、小声の掠れた声になってしまった。けれど、獣人の彼なら聞き逃さないはず。ついでに言えば、獣人の客達も。



それなのに、ルーカスは俯いてしまってなにも言ってくれない。微妙な沈黙に、周囲も困惑していく。


あ、あれ?受け入れたらだめだったかしら……?


いよいよ不安になってきた頃、私の手を支えるルーカスの手が震えていることに気が付いた。

「ル、ルーカス?」

顔を覗き込もうにも俯いてしまっているから、今彼がどんな顔をしているのかがわからない。