占いお宿II 新たな契りを結ぶ時

「わ、私は……正直に申しますと、お兄様と会えたことは、すごく嬉しいです。それから、ヨエルのことも気になります。けれど、物心ついた頃から一度も会ったことのないお父様と会うのは……心がついていきません。決して、お会いしたくないわけではないのですが……」

「マリアーナ……」

「そ、それに、シュトラスで私の居場所があるとは思えません。王女だなんて、名ばかりです。実態も何もないのに、いきなり現れたって、誰も受け入れられないのではないですか?」

「そ、それは……そうだな。マリアーナの危惧する通り、籍こそあれど、急に現れた王女を誰もが手放しで受け入れるかと聞かれれば、そうだとは断言できない。しかし、陛下は公の場でマリアーナの存在を認めるつもりだ」

それだけで、本当に彼女の存在が認められるのだろうか。いささか根拠には弱い。

「陛下は、マリアーナの縁談を考えている。マリアーナの存在を公にした上で、後ろ盾となる相手と」

「勝手すぎやしないか?」

他国のこととはいえ、あまりにも我慢ならないといった様子で、ルーカスが口を挟んだ。

「ユリウスにはユリウスの人生があるように、マリアーナにもマリアーナの人生があるんだ。理由はともあれ、これまで彼女を蔑ろにしてきたのに、それをいきなり捕獲して連れ帰って、勝手に見繕った男と番わせるなんて、あまりにも彼女の意思を無視しすぎではないか?」

言葉遣いについていろいろと突っ込みたいところはあるものの、これはさすがにルーカスの言い分に賛成だ。
言われた側のユリウスは、一瞬なにを言われたのか理解が追いつかず、ポカンとしてしまった。

「ユリウスの妹を想う気持ちは、俺にもわかる。それに、力及ばずとはいえ、マリアーナのためにできる限りを尽くしてきたのも事実だ。だが、それは全て、ユリウスの気持ちの押し付けだ。マリアーナ自身の気持ちを考えたことはあるか?」

「マリアーナの、気持ち……」

「そうだ。彼女は、ヨエルと離されることを望んだと思うか?代わりが効くならいいやと、すぐに仕事を投げ出すことをよしとすると思うか?」

そうだ。ユリウスには、その視点が抜けてる。〝妹のため〟という想いに突き動かされた彼を、否定しようとは思わない。けれど、当事者であるマリアーナの気持ちも、ちゃんと汲み取ってあげて欲しい。
きっと、ユリウスの中では、マリアーナが自国で王女として認められて、相応の暮らしをさせることこそが、彼女の願いだと決めつけているんじゃないな。外の世界を知ったマリアーナが求めるものが、決してそんなものではないって、彼にはわからないのだろう。