馬車の外が賑やかになってきたということは、グリージアの王都が近付いてきたのか、もしくは、既に入ったということか。それに連れて、私の言葉数が減っていく。外を見るのが怖い。

「ライラ」

私の手に重ねられていたルーカスの手に、ぎゅっと力がこもる。

「大丈夫だ。過去のことは、アルフレッドがちゃんと正してくれたんだ。ライラが遠慮することも、怯えることもない」

「ルーカス……」

「そうだ。堂々としていればいいさ」

「ドリー……」

わかってはいても、グリージア城へ行くということは、私にとってそれなりに勇気のいることだ。どんな顔をしていけばいいのか。ここは緩衝地帯じゃない。いつもの調子でアルフレッドに接していいわけじゃない。
あれ?ていうか……

「私達って、どういう立場で城に入るの?」

「そんなの、決まってるだろ。隣国の第一王子
ルーカス・サンミリガンとしてだ」

まあ、そうだ。それは当たり前のこと。

「私とドリーは?」

途端にニヤリとするルーカス。あれ?これは聞かない方がよかった案件かも。

「俺に同行する女性だ。婚約者とその侍女に決まってる。そう先ぶれも出してある」

「は?」

うん。聞かなかったことにしておこう。王子付きの侍女2人でいいじゃない。

「アルフレッドのやつの顔を見るのが楽しみだ」

「いや、私も侍女でいいから。こんな格好だし」

今の私が着てるのは、どこからどう見ても庶民の普段着。侍女としてもどうかってぐらいの。

「問題ない。2人で、友人であるアルフレッドの元へお忍びで遊びに行く設定だ」

「友人!?遊びに!?」

そんな無茶苦茶な。