「ふむふむ。で、次の本は何処なの?」

もう一回調べてみるもそれらしき本は何処
にも見当たらないのだ

「なんだ~。折角何か知れると思ったんだけどなー…。」

私は資料を放り出し、畳に倒れ込む

(じいちゃん…お母さん…。
 お兄ちゃん、今何処にいるの?)

畳のいぐさのにおいが幼い頃の思い出を
呼び覚ましてくる

(会いたい…。)

優しく誘ってくる春風に吹かれ、私は
いつの間にか眠ってしまった




「お兄ちゃん!待ってお兄ちゃん!」

小さい私は先に歩く兄の背中を目指して追いかけていく

兄「何だ、桃子も居たのか。」

「先に行くなんて酷いよ!」

頬を膨らまして兄に怒った

兄「はは、ごめんごめん。じゃあ一緒に帰ろうか。」

「うん!早く帰ってお母さんにあれ渡そう!
 お兄ちゃん、ちゃんと買った?」

兄「買ったよ。喜ぶといいね。」

母の日に渡すプレゼントを兄と私でお小遣いを貯めて買ったのだ

家に帰宅するとすぐ母の元へと駆けつけた

「ただいま、お母さん!」

母「あらあら、お帰りなさい。」

丁度母は目を覚ました所なのか布団から
体を起こしていた

兄「母さん、ただいま。」

母「※※もお帰りなさい。」

兄「あの…母さん、渡したい物がある
  んだけどいいかな?」

兄は後ろに隠し持ったプレゼントを
おずおずと出そうとしたその時

母「えぇ?何を…っごほごほ!」

突然母は苦しそうに口元を抑えた

兄「母さん!?しっかりして!」

「お母さんっ!」

顔を歪める母の姿に涙が溢れてきた

「やだよっ!お母さん!」

兄は母の背中をさすっている

じいちゃん「大丈夫か?…ってどうした!」

じいちゃんが様子を窺いに来たようで母を見た途端
慌てていた

母「ゔっ…!げほっ、げほっ!」

布団が赤く染まっていく

「………。」

その後の記憶は曖昧だった

でも確か、じいちゃんが病院に連絡して
お母さんが運ばれていった

血を吐いたのはこれが初めてだったかも…

これを期に母はみるみる弱っていった

次に覚えていたのは母が病院で落ち着き、家に帰った事だ

「お兄ちゃん…。」

暗く沈んだ表情の兄に声を掛けた

兄「あ、ああ。心配するなよ。
  母さん、心配は要らないってさ。」

しかし兄の手を握ると微かに震えている

同時にこの頃から兄の様子もおかしくなっていった