確かにワインレッドのギンガムチェック、たまにカウボーイのようなハットを被ってるときもある。

それを自分では“イカしてる”と思っているらしく、もう絃織もツッコまなかった。



『誰よりも元気だと思っていた女が弱ってるときほど、ほんっとに男ってのはヘタレで困る。
だが…そういう姿にイチコロなんだよな』


『そうなんだ…』


『はは、お前もいつか分かるよ』



それでもやっぱりピンと来ない。

“いつかの女”を指している男の言葉が、少年は想像すらできないのだ。


いつか大人になったとき、もっと大きくなったとき。

そこで出会う新たな女性───そんなもの無くていいのだ。


絃織にはただずっと、絃という少女がいてくれさえすればそれでいい。



『悪い絃織。ゆっくりしていきたいとこなんだが、またこれから外さなきゃならなくてよ』


『うん、大丈夫。絃もいつもお利口さんにしてるよ』


『それはお前がいるからだろう』



悔しいが俺より懐いてる───と、男は優しく微笑んで部屋を出ていった。



『…俺がいれば寂しくない?』



ぱちっと開いた瞳は可愛らしいつり目をしていて、義母によく似ていた。

ぱちぱちと見つめてくる赤ん坊をひょいっと抱っこして、『ねぇ絃』と優しく問いかける。


すると何よりも愛しく笑ってくれるのだ。



『俺もたぶん……一目惚れだ』



おやっさんの言っていたことが一目惚れならば、確実に俺は一目惚れだった。


君を初めて腕に抱いたとき、綺麗な光に触れたとき。

もう俺の心は君しか見えていない。


それはきっと、一目惚れだった。