あたしは昔からそうだった。

極道の家系で男ばかりの場所で育ったからか、猪突猛進に突き進むところがあって。


だからこそ、そんなものが柔道に発揮されたのだろうけれど。



「取り込み中悪いが、大事な話なんだ。聞いてくれ」



まだ腕に少女を収めたまま、視線だけが向けられた。


そんなにも大切なのかその娘が。

確かに天鬼の一人娘だが、普通の子じゃないか。

極道の女ならば多少肝が据わっているはずだが、そうじゃない。


こんなの、どこにでもいる高校生だというのに。

この男がそこまで惚れるのだから何か特別なものを持っているとばかり思っていたが。



「あとにしろ。お前の話はいつも長ぇわりに内容が薄い」


「なら簡潔に言う」



「なんだ」と、眼差しが少し変わった。


どうせまた一緒に仕事をしないかと誘われるとでも思っているんだろう。

だが今回はそんなものじゃない。


そんな、どうでもいいことじゃない。




「那岐 絃織。どうやらあたしはあんたに惚れているらしい」




そんな伝え方しかできない自分が嫌だった。

もっと女らしく可愛く伝えられたらどんなにいいだろうと。


しかし素直になれないのもまた“鉄の女幹部”と呼ばれる佐伯組、一人娘である佐伯 千春の性分だった。



「な、なんで今……?わかってたけどさぁ…っ」



目を見開く男とは反対に、少女は瞳を揺らしてあたしを見つめた。



「あーらら。走り込み行くよ絃ちゃん。
…負けるなよ絶対に」


「押忍…っ!」



その腕から逃れ、天道を追いかけるように走って行く天鬼 絃。

そんなものを見つめつづける男に、あたしはまた悲しい顔をさせたんだと。


だが、後悔は何ひとつしていなかった。