「…飯、作ってくれてたんだろ。お前が来ると思ってギリギリまで待ってたんだが…ぜんぶ俺が1人で食った」


「…わたし、走り込み、」


「うまかった、…ありがとう。メイクも……可愛かった」


「走り込みっ…」



会話が噛み合っていなくても、ただ男は気持ちを伝えたかったらしい。

今にも泣きそうな震える声が包まれた腕の中から聞こえる。


それでも「走り込み」と、その言葉を繰り返していて。



「うん、絃ちゃん。別に走り込みってそこまで重要じゃないから」


「体力づくりが基本って師匠言ってたでしょ…!」


「師匠ってなんだよ。つうかなんで空手なんかやってんだ。……面接ってどういうことだ」



しん、と静まり返った。
そして質問に対する返答はない。


だからか那岐 絃織は余計に腕の力を込めていた。

そんなものに苛立ちに混ざって、悲しさがあたしの中に生まれる。



「空手なら俺だって教えてやれる。…なんでマンションに帰って来ねえんだよ」


「しゅ、就活が忙しくていろいろ忙しくて、忙しくて…それに、」


「それに?」



いい加減離したらどうなんだ。

別にわざわざ抱きしめなくたって会話は出来るだろう。

大体、そうしてるほうが話しづらいってのに。



「っ、強くなりたいの…!心身共に…!私もう18だからっ!自分の人生は自分で決めるっ!」



それは那岐 絃織を振ったってことじゃないのか…?

そう捉えていい内容じゃないのか…?



「那岐 絃織、少し話がある」