この世界に身を置いていれば“那岐”という名前が持つ過去も少しばかり知っていた。
その上でこの男が天鬼組にいることも何となく知っていて。
だが、そうだとしてもこいつの強さはそれとはまた別のものだ。
『なんだ、甘いもの食べるんじゃないか』
人の寄らない非常階段がそいつの昼食場所らしい。
片手に持ったカップアイス、そんなものを付属のスプーンで食べる姿がどこか幼く見えて面白かった。
『まぁ、これだけはな』
『なんだ、なにか思い入れでもあるのか』
『…あぁ』
とても優しい顔をした。
それはあたしに向けられたものじゃなく、他の誰かへと向けられたもの。
そして話していくうちに『いと』という存在を知った。
それがこの男の原動力のすべてだということも。
『会わないのか、その“いと”って奴には』
『…まだ会えない。だがいつか必ず迎えに行く』
『どんな奴なんだ、…そいつは』
それが男なのか女なのか。
こんなにも気になっている自分が、この上なく気持ちが悪い。
それを一番に嫌っていたというのにどうしたものか。
『……かわいい、やつだ』
まさかこの男からそんな単語が出るなんて、つい反応するまでに時間がかかってしまった。
『かわいい…?』
『…あぁ。俺の、…光なんだ』
それは犬や猫のようなものか。
それともかつて大切にしていたオモチャか。
もしかすると命あるものでは無いかもしれない。
大事にしていた本や服、そんなものかもしれないというのに。



