『もう1回だ…!』
駄目だ、ぜんぜん駄目だ。
向かい打って懐を狙って隙を突いて。
押さえ込んで一本取ろうとして。
『まだもう1回…っ!』
それなのに、勝てない。
柔道でも空手でもない動き、しかし基本の技はたまに使われていて。
関節を取られて幾度か骨を折られそうな恐怖に襲われた。
『何度やっても変わらねえよ。お前の動きは1パターンしかない』
中国武術のような動き。
それはテレビでしか見たことがなかった。
聞いたことがある。
武術で一番強いと言われている空手よりも、その上がひとつだけあると。
それが、中国拳法。
『試合と実戦は違う。お前は俺には勝てない』
そう、それは試合なんかでは無かった。
すべてが身を守るための術なのだ。
目が、動きが、すべての格が違いすぎる。
あたしとの決定的な違いはそれしかない。
相手にすらならない───それはそんなものだった。
『……あたしの、…負けだ』
初めてだった、誰かに負けたのは。
こうして負けを認めたのは。
この男は強い。
その強さがどこからきたものなのか、知りたくなった。
『佐伯、だったか。お前は柔道の動きだけなら俺より強い。
最初…女だからと言って悪かったな』
その男が柔らかく微笑んだ顔も初めてだった。
───…目が、離せなかった。
『よう、那岐 絃織』
『…試合はしねえぞ』
『ははっ、そんなつもりはない』
それからこうして普通に話せるようになった。
女子生徒には暴言を吐かれることもあるが、気にもならないところがあたしの性格。
『あんたは天鬼組にいるんだろ?』
『…知ってたのか』
『あぁ。あたしは佐伯組、天鬼組とは昔からの馴染みだからな』



