女子だから、と言われるところだったのだろう。
だから被せるように放った。
『那岐 絃織だったな。あたしは佐伯 千春。手合わせ願いたい』
小学生の頃から毎年全国出場しているし、優勝経験もある。
そしてこの高校は柔道や空手の強豪校ということもあり、もちろん推薦入学。
負ける気がしなかった。
『俺は女に手荒なことはしない』
『はっ、ナメるなよ』
咄嗟に走り向かった。
『おい佐伯っ!』と顧問の慌てた声すら気にすることなく、スカしたそいつの襟をぎゅっと掴む。
背負い投げの体勢を作り、そのまま持ち上げた。
『ほら、ほどいてみろ。このまま女に投げられるほどに情けない男なのか那岐 絃織は』
そして煽る。
だが、背負っただけで分かった。
普段同じように背負い投げている男子部員とは身体の作りから違うと。
制服に隠れてしまう男の筋肉はしっかりと付いていて。
『別にしてもいいが、この体勢からだと腕折られても知らねえからな』
『っ…、』
思わず身体を離してしまった。
周りはざわめきが広がる中、そんなものすら気にしていられない。
怖かったのだ。
本当に折られてしまうと思った。
『…悪い。冗談だ』
冗談…?
今のがそうだとしたならば、笑えない。
『…ふざけるな。あたしと勝負をしろ!柔道じゃなくていい、総合で試合だ』
なにを使ってくれてもいい。
なんでもいいからこいつに勝ちたかった。
悔しかったのだ。
『女のお前にはどうしたって無理だ』と、指を差されたみたいで。



