『一本!佐伯!!』
そんなあたしは、保育園の頃から続けている柔道だけが取り柄みたいなものだった。
部活にはもちろん入っているが、女の場ではレベルが低すぎる。
だからこそ男子柔道部に混ざって練習に明け暮れる日々。
『やっぱ佐伯つえー。お前が女で良かったわ』
『男だったら殺されてたんじゃね』
ギャハギャハと笑うその声に虫酸が走る。
女とか男とか。
そういう言葉が大嫌いだった。
あたしの家は代々から伝わる極道一家らしく、男の中で育ってきた。
小さな頃は自分は男だと思い込んでいたくらいで、女の身体に嫌気がさしたときもある。
『みんな聞いてくれ。今日は特別、那岐君が練習に参加してくれることになった』
大方、顧問に騙されたのだろう。
部員の前に立たされた1人は怪訝そうな眼差しで、顧問である男を一瞬睨んだ。
『…俺は柔道はそこまで得意ではありません』
『なにを言う!全国2位という実績があるじゃないか!』
この男の中で2位は“得意じゃない”と、なるらしい。
こういうところも気に食わない。
『ちょっ、うわぁ…っ!!』
『はっ!?嘘だろ…!?』
寝技をかけられても押さえ込まれても、そいつはどんな術を使ったのか如く振りほどいてしまう。
気づけばそんな姿に柔道部の練習場には他の部活の生徒までもが観客のように囲んでいた。
相変わらず女子はキャーキャーとうるさい…。
『先生、あたしに試合をさせてください』
『だが佐伯。お前は───』
『ここの誰よりも強い自信はあります』



