「なぁ、やっぱりあたし達で新しい組織を作らないか?もちろん今まで通り天鬼組も併用で構わない」
だからこそ、あたしはこうして誘っているのだ。
那岐 絃織の過去を知らないわけではない。
そしてその名前が懇親会で吉と出るか凶と出るか。
それでもこうして佐伯組の一人娘でもあり、唯一の女幹部である自分が手を加えれば救えるのではないかと。
…あたしはこいつを救いたいのか。
「それか、あたしが女だから気に食わないか」
「…誰もそんなこと言ってねえだろ」
変わったこいつと違って、あたしは何ひとつ変わらなかった。
昔から女であることに嫌悪感を感じていて、ずっと男になりたかった。
だからこそ柔道を極め、男に負けないくらい強くなったというのに。
そんなプライドをへし折ったのもこの男。
「あたしは昔の那岐 絃織のほうが好きだった」
あんな小娘に振り回されるあんたじゃなく。
孤高で、我が道を突き進む、強いくせに勝敗に拘らない男。
そして男だとか女だとか家柄だとか、そういう肩書きで人を見ない奴だった。
「変わってねえよ俺は何も。ただ、ぜったい離しちゃならなかった1度手放したモンが…再び手に入っただけだ」
たったそれだけで男という生き物はこれほどまでに変わってしまうものなのか。
あぁ、そういえば昔も「いと」という存在が何よりも大事だと言っていたか。
だからあたしは、そんな名前の少女がこの上なく羨ましいのだきっと。
『那岐 絃織。あたしがその“いと”の代わりにはなれないか?』
かつて放ったそんな言葉を、まぶたの裏に思い浮かべた───。



