え?なんのこと?なんてとぼけたならば、今度こそ問い質してやろう。
桜子ちゃんを傷つけるなら私だって許さないぞ陽太。
だってあの子は“縁談破棄”を自ら申し付けて、潔く屋敷を去って行った。
それでも最後は彼女なりの「振った」という強がり。
「もうね、寂しさ埋めるだけの付き合いはやめたんだよ俺」
「…じゃあ、本気なの…?」
「うん。だって、お嬢様で大食いってギャップすごくない?」
確かにすごい…。
全然そんなふうには見えないのに。
人はやっぱり見かけによらないんだ…。
「それに」と、陽太は笑顔を止めて言葉を繋げた。
「あの子ね、1度も絃織さんと絃ちゃんを責めたことないよ。
それどころか2人がくっついたって知ったとき───…誰よりも喜んでた」
罪悪感とか、申し訳なさとか。
そんなものよりも真っ先に「ありがとう」って言葉が胸いっぱいに広がった。
誰かの恋が実るときは、必ずどこか誰かの恋が失ったときだと、いつかに本で読んだことがあった。
そういうものの上に成り立つ幸せだからこそ、大切にしなきゃいけない。
「陽太、桜子ちゃんに……ありがとうって伝えといてくれる?」
「…それは自分で言えばいいんじゃない?あの子、ずっと友達になりかったみたいよ絃ちゃんと」
私が手にしていたペンをひょいっと奪ってメモ用紙にスラスラと書いてゆく陽太は、初めて見るくらい優しい顔をしていた。
そして“高柳 桜子”と書かれた下に、彼女の電話番号。



