ガチャと玄関を静かに開けば、それ以上に妙な静けさだった。
寝てるのかな…?
それとも千春さんはもう帰った…?
どちらにせよなるべく音を立てないように向かう───が。
「違う、あれは那岐 絃織がズル賢い真似をしたんだ」
「してねえよ。ハンデは十分やっただろ」
「あたしの背負い投げを回避したいがための言い訳にしか聞こえんな」
「はっ、言ってろ」
寝室ではなくリビングのソファーに並んで座る、ふたつの影が微かに見えて身を潜めた。
もう起き上がって大丈夫なの…?
熱は下がったの…?
冷えピタとか色々買ってきたよ。
無理言って2箱買ってきたんだよ。
「まさかずっと言っていた“いと”があの娘だったとは。あたしはペットか何かだと思っていたんだが」
「…まぁ確かに、似たような愛護欲は湧くがな」
あぁ、ほら。
これがいちばん見たくなかったものだ。
内容は私のことだとしても、こうして楽しそうに昔話に花を咲かせるってやつ。
走って帰って来なければ良かった…。
「那岐 絃織は昔から予想ができない男で困る。…どうやら今回もそんなものだった」
それは私のこと…?
やっぱりそういうことでしょ…?
どうせ私みたいなのを選ぶなんてって、腑に落ちてないことなんか知ってるんだから。
私だってそうだよ。
だから隣に立てるように、釣り合うように頑張ろうとしてる。
「だが、昔からバニラアイスは好きらしいな」
「…バニラアイス“も”、だな」
そんな特権が、また彼女にひとつ取られてしまったらしい。
その手にあるカップアイス。
いつも2人で食べてたもの。



