だから私がこうしていつもと少し違うことをしたって、普通にしかならない。
平凡だ。本当に平凡。
パッチリ二重ってわけでもないし、目鼻立ちがくっきりしてるわけでもない。
素朴な中でも生まれたときからの茶髪が唯一の手助けってところか。
「…忙しいのかな」
そして時計の針は19時を過ぎてしまっていた。
いつも宣言した時間より早くに帰宅する人だったから、逆に珍しい。
カチカチと広く静かなリビングに響く音。
───ガチャ。
わっ、そんなこと思ってたら帰ってきたみたいだ。
「絃織っ!おか───…えっ、どうしてここに、」
「悪い、上がらせてもらう。すごい熱なんだ」
返事をしたのは絃織ではなく、そんな彼を背負いながらも平然としている女だった。
黒い髪で同じ色のスーツ姿で、淡々と話す人。
「熱…、だ、大丈夫なんですか…?」
「無理のしすぎだ。どうやら押し寄せてた仕事を1人でぜんぶ片付けてしまうつもりだったらしくてな」
本人も気付かないうちにこの有り様さ───と、絃織をベッドへ下ろしたのは千春さんだった。
苦しそうに胸を上限に動かす額にそっと手を乗せてみれば、驚いてしまうくらいに熱い。
「なんでこんなになるまで…」
若頭になったからって、部下はたくさんいるはずだ。
俊吾だって陽太だって。
それに私だって、少しでも何かできることくらいあるはずなのに。
「天鬼組はどうにも他の極道グループからナメられているらしい。それを自分の力不足とでも思ってるんだろう。
昔から那岐 絃織はそういう男だったからな」



