「わっ、もーー!カレー冷めちゃう…!」
「また温め直せばいい」
「そうなんだけど…!」
わざわざ手動で閉めなくても閉じればガチャッと自動で鍵のかかる使用のドア。
無駄のない動きで私を抱えて、カレーの匂いが広がるリビングのソファーへ向かってゆく。
当たり前のように座って、膝の上に乗せられて。
「歯ブラシとか日用品もたくさん買ったよ。あとお揃いのマグカップも…」
「マグカップ?」
「うんっ!私たちのイニシャルが表記されて───…っ、んっ」
最後まで話すことさえも許されないらしい。
でも、それは強引なものじゃない。
啄むようにちゅっ、ちゅっと合わさっては跳ねるように離れての繰り返し。
「…誕生日、再来週だよな」
「う、うん…」
「その日は早く帰る。…だからここで待ってろ」
「…うん」
それはいろんな意味を含む確認だった。
覚悟決めとけよ───なんて、聞こえたような気がする。
もちろん私だってそういうコトは…したくないってわけじゃない。
ただ想像ができないだけで。
心臓はちゃんと動いてくれるかなって、そういう不安の方が大きい。
「カレー食いたい。今日はコーヒーしか飲んでねえからかなり腹減っててな」
「え、そうなの…!?いっぱい作ったからおかわり無限にあるよっ!」
「おう、無限に食ってやるぞ」
「はは」と、絃織は笑った。
私にしか見ることができないえくぼを見せてくれて、ちゅっともう1度軽く唇が合わせられる。



