光を掴んだその先に。─After story─





「あれは…空手…?」



あの背負い投げはどんな武道だろう。

私はせめて竹刀の代わりになる棒が無ければ何もできないというのに。


千春さんは素手で男を倒してしまった。



「ふっ、悪いが暇じゃないんだ。いい加減退いてくれないか」



キリッと顔を作って真似てみる。

男らしい口調で淡々と、余裕の笑みで。



「ふっ、私は絃だ。……。」



………ちがう。

ぜんっぜん違う。


こうじゃない。
こんなの逆にナメられてしまうだけだ。



「今度…稽古つけてもらおう」



ここは陽太だ。

陽太は剣道はできないけど空手は身に付けていると言って、前に少し型を見せてもらったことがある。

初めて陽太を格好いいと思ったシーンだ。


そんなことよりっ!!



「早く帰ってカレー作らなきゃ!」



2人で過ごす週末はなるべく早く帰ると言ってくれていたから。

カレーを作って出迎えてあげるって、ずっと計画していた今日。


初日から失敗するわけにはいかない。



「おかえりっ!」



時刻は19:40。

若頭にしては早めの帰宅に、玄関前でそわそわと待ちわびていた私は飛び付いた。



「…ただいま。エプロン買ったのか」


「うんっ!カレー作ったの!」


「……まじか。最高だな」



顎をくいっと持ち上げられ、甘い唇が落とされる。

そのまま気持ちと一緒にひょいっと身体まで軽々と浮いてしまった。